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2018年度 課題研究発表会
口述演題

地域で寄り添うコミュニケーション支援 ~失語症がある人の日常から考えよう~

キーワード:地域失語症意思疎通支援事業
言語聴覚士学科
木村 絵理子/西村 良保/布廣 文香

はじめに

失語症は,一度獲得された言語機能が大脳の限局的な病変で障害され,その9割が脳血管障害によるものである.現在,視覚聴覚の障害で意思疎通困難な場合,手話通訳や誘導用ブロックなど支援事業が定着している.一方失語症者への支援は十分ではなく現状を改善するため厚生労働省は平成28年,会話のサポートや買物の同行等を行う支援者養成のため意思疎通支援事業を始めた.

本研究の目的は,失語症者の現状を文献的に把握し,地域を調査し,地域活動や社会参加の促進に対する支援の在り方を検討することとした.

方法

文献的調査および地域(鳥取市内)の商業施設・公共交通機関等を対象に調査・インタビュー実施.

結果

失語症者総数は全国推計20~50万人で,男性が 8割で発症年齢は20~50代が6割であった.

在宅復帰率は約7割だが,職場復帰率は1割以下と非常に低く,生活では買い物や飲食店での注文,駅やバスの案内表示の理解,銀行やATMでの手続等に困難を示していた.

地域の調査では,公共交通機関の乗り場や駅構内の案内表示で地図記号と異なる独自のシンボルが使われていた.駅構内の案内表示は平仮名が多く,電車の遅延アナウンスは音声のみであった.

商業施設の案内表示は長文も多く,郵便局の窓口では文字案内のみであった.飲食店では注文は指差しで可能だが,呼び鈴がなく音声で店員を呼ぶ必要があり,支払いは電子マネーや携帯電話で
可能な店が多く認められた.ATMの操作画面は音声指示と画面の文字が不一致で,誤操作しやすい環境であった.

IT技術を駆使した支援や,各種のサポーターなど様々な支援システムが見られた.

交番や各総合案内では,手話や筆談で対応が可能と誤った理解や,症状が分からず対応方法を教えて欲しい等の声が聞かれた.

考察

今回の調査から,失語症者の意思疎通を支援する体制は現在のところ不十分であり,失語症の認知度の低さや誤解が,施設案内表示や手続き上の表記が分かりにくい環境を作り,活動や参加を制限する要因となっていると考えられた.

また,各支払いをIC化することで言語活動の負担を軽減することや,失語症の社会的認知度を上げる取組み,会話の要点筆記など適切な関わり方を理解した支援者の養成,銀行等の手続きに支援者を派遣・同行する環境整備が必要と考えられた.これらの整備には,地域の言語聴覚士と自治体が緊密に連携し,意思疎通支援事業を推進することが必須だと考えた.

参考文献・引用

  1. 種村純他:障害者福祉分野における失語症の社会的支援に関する実態調査.高次脳機能研究33(1):37-44,2013

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