関節リウマチ患者の箸操作向上を目指した取り組み -少しの工夫が笑顔を増やす!-
はじめに
「食事」は生命の維持に加え,楽しみがある.食事を楽しむには,食器の位置や机の高さ,箸や食器の操作,嚥下機能などの影響を受ける.
本症例は,関節リウマチ(以下,RA)により手指が変形し,箸の把持・操作が困難になり,箸や摘んだ食塊の落下が増え,家族に叱責されるようになった.そこで,症例が再び家族と楽しく食事ができるように,症例に適した箸を開発した.
対象
RAを呈した80歳代女性.
箸操作の状況:箸の落下や把持位置のズレ,食塊を集める・摘むの困難,食塊の把持持続の困難.
方法
(1)手指の状態を把握した.
(2)箸の素材・形状の決定した.
(3)道具・材料を準備・作製した.
(4)症例が使用し,箸操作を評価して改良した.
経過
(1)素材:割り箸(食塊の滑り防止).形状:示指の位置に輪ゴムリングを接着(示指と箸の固定),手掌位置に粘土のグリップを接着(箸操作の安定),箸をトングで接続(箸先の易開閉)
(2)素材:シリコン製箸に変更.形状:輪ゴムをフックにし,フックとグリップは熱可塑性樹脂(以下,アクアプラスト)に変更.
結果
(1)箸の把持:把持位置のズレが減り,持ち直し回数も減った.箸の落下もなくなった.
(2)食塊の把持:摘み直しの回数が減り,把持後の落下もなくなった.
(3)食事の状況:再び家族と一緒に楽しい食事が可能となった.
(4)症例の評価:作製した箸は「重たくて疲れる」との発言があった.
考察
箸操作は手指の変形により中指の伸展困難,巧緻性低下,筋力低下が顕著で,箸の長時間把持が困難であった.また,プラスチック製で四角の形状で食塊の落下が多かった.そこで,素材は割り箸,箸をトングに固定し,示指の屈曲動作で箸の開閉を可能にした.示指の置き位置は輪ゴムでリングを作製したが,日によって手指の腫脹があり,装着に時間を要すためフックに変更した.その結果,手指腫脹時も使用可能となり箸装着時間が短縮した.箸開閉操作の安定性を図る粘土性のグリップは重く,手指への負荷が大きかった.
箸の素材はシリコン,グリップとフックはアクアプラストに変更し,食塊の落下はなくなった.また,グリップと示指の固定により,手指の把持に加え手掌握りを利用し,箸の安定性と負荷量軽減により,最小限の力で箸操作が可能になった.
今後の課題
箸の操作は安定性を増したが,重量化し,疲労感があった.また,トングと箸の隙間は不衛生であり,軽量化と衛生面の課題が残った.
参考文献・引用
- 小嶋寿一他:自助具ハンドブック財団法人テクノエイド協会,2003
- 松本義彦:手作り自助具の工作技術,2013