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2017年度 課題研究発表会
口述演題

日刊工業新聞社賞

慢性心不全(終末期)による意欲低下のある患者の看護 -輝いていた人生に視点を当てて-

キーワード:その人らしさ心不全患者思いを寄せる
看護学科
藤原 江梨花

はじめに

心不全はすべての心疾患の終末的な病態といわれており,入退院を繰りかえすことが多く,患者の病状が増悪,軽快を繰り返しながら呼吸困難やADLの低下が緩徐に進行する.しかし,終末期の心不全の患者は呼吸困難,疼痛,不安の頻度が高くなり日常生活を送ることが困難となる.

終末期の心不全患者を受け持ち,1年近く清潔援助拒否の患者に対し「清潔」に対してアプローチを行ったが,受け入れてもらえなかった.しかし,「患者の思いや生き方」に気づくことにより日常生活行動を取り戻すきっかけとなったことについて報告する.

事例紹介

A氏,80歳代,男性,元教員,COPD,心不全増悪で入院.主訴:息切れ,呼吸困難,NYHAIV度,SpO280%台(24時間モニター管理)治療:酸素療法,薬物療法,入院前は多趣味であったが,体動制限や病状の増悪により死を覚悟し,意欲低下になっていた.入浴拒否があり,自己否定的な感情の表出や死を意識した発言が多く病室からでることはなく,ベッド上生活であった.

看護の実際

受け持ち時の問題点は,一年近く入浴をしていないことから「セルフケア不足」だと思い様々な方法でアプローチしたが強い拒否が続いた.患者の拒否の背景について思いを傾聴すると,家で入浴中に溺れ入浴に対する強い恐怖感があった.加えて,体動時の息切れ,24時間のモニター管理,酸素投与といった制限された日常から行動意欲が低下していることや死に向かうことを意識した無力感が拒否に繋がっていると気付いた.

そこで,患者自身を理解し,その人の持つ力や強みを引き出すことに視点を当てて関わった.コミュニケーションを通して趣味である短歌や元教師という背景を知り,それを生かして短歌を教えていただくという関わりを持った.その関わりの中,入院中の想いや心の中に溜めておられた感情を表出するようになった.そして少しずつ短歌を作り,表情も変化し,生き生きと昔のことを語るようになり,実習最終日には短歌をプレゼントしてくださるまでになった.こうしたことから,患者にとって自分が一番輝いていた時の価値観を取り戻すことが出来た.こうして思いを傾聴し関係性を築いていった結果,最終的には,本人の意思・希望で病室外に出て患者の活動範囲が広がることにまで繋がった.

考察

セルフケア不足でアプローチしていたが,視点を変え関わった.M.ニューマンは「その瞬間に心をこめて寄り添うこと.寄り添い,それは,相手を気遣って深く関心を注ぎ理解しようとすること」と述べている.その人の人生観や価値観をとらえることで,輝いていた時の気持ちや生き方に近づけることができ,その人らしい療養生活ができるようになったと考える.

まとめ

看護は,患者の生活を整えることも大切だが,その人らしく生きていくために,人生観や価値観を把握し,個々の想いを大切にしていきたい.

参考文献・引用

  1. マーガレット.A.ニューマン.マーガレット・ニューマン看護論.医学書院;92-93,1995
  2. 都留伸子.看護理論家とその業績第3版.医学書院;591-607,2004.

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