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2017年度 課題研究発表会
口述演題

重症心身障がい者への倫理的アプローチ

キーワード:五感人間の尊厳成長発達
看護学科
山下 愛弓

はじめに

全盲で声かけによる反応がなく,言葉にならない発声をあげる10歳代後半の重症心身障がいの対象(以下,A氏)に対面した時,身体的異質性と実年齢とのギャップに大きな衝撃を受けた.

今回,重症心身障がい者との関わりを通して,ひとりの人間としてその尊厳をどのように尊重すればよいのか,倫理的課題と看護の観点について考える.

事例紹介

A氏10歳代後半女性
脳性麻痺(重度肢体不自由と重度知的障がいを伴う)視覚障害(全盲)
762gの超低出生体重で出生.3歳の時に両親が離婚.母親が精神疾患のため,4歳より医療型障がい児施設に入所.卒業後,B病院に入院.

看護の実際

対象の特性を知るために,A氏が現在参加している療育活動の見学をし,また日常生活の援助を行いながら,療養環境に焦点を当て生活状況の把握を行った.日々,身体の運動機能や皮膚の状態の観察を行ったが,A氏は不快やストレスを感じると噛むという自傷行為があり,右前腕にその跡がみられた.また,両手の母指は指しゃぶりによる胼胝が形成されていた.

意思疎通の方法を見つけるために,発達理論や遠城寺式乳幼児分析的発達検査法を用いて,成長発達状況を評価した.A氏の成長発達の段階は,対人関係0か月,発語2.5か月,言語理解0.5か月,その他は全て1歳未満であった.

A氏の名前を呼ぶ時は,「ちゃん」ではなく「さん」で呼び,コミュニケーションではタッチン
グを活用し,声のトーンや質を変えて話をした.

また,車椅子での散歩を計画して,日光の暖かさや風を感じられるテラスへ行った.A氏は,看護者の声掛けには反応を示すことはなかったが,陽射しや風の感覚や機械音には反応を示し,笑顔も見られた.

考察

重症心身障がい児・者の成長発達は,ばらつきがあり,ゆっくりと進む特性がある.

A氏の成長発達状況のばらつきや自傷行為は,母子間の関係性と関係しているのかもしれない.しかしながら,A氏の様子や反応から,視覚障害があっても聴覚や触覚といった五感への刺激により,感覚の発達を促がすことができると考える.また,生活環境を整えること,興味や関心を高められる機会は,心理的な成長や精神的な満足感を得られる援助につながる.

短期間の私の関わりではA氏に変化は見られなかったが,継続した関わりを積み重ねていくことが重要であり,成長発達を促す援助に近づけると考える.

まとめ

看護倫理に『善行原則』がある.患者にとって最善の医療を実践することである.

A氏には成長する権利があり,看護者には,この成長・発達に関心を持ち,それを促す技術と観察力が求められる.

参考文献・引用

  1. A .Jean Ayrers:子どもの発達と感覚統合
  2. 舟島 なをみ:看護のための人間発達学

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