精神障害に偏見をもった学生 A の精神看護学実習を通しての態度変容 ~コミュニケーションの視点から考える~
はじめに
精神科実習において看護学生は実習前はさまざまな不安や恐怖を感じているが,実習後は軽減1.2)し,精神障害者へのイメージは修正される3)といわれている.今回,精神看護学実習(以下実習とする)で精神障害に偏見をもった看護学生Aの精神障害に対する態度変容がみられた.その変容の要因について考察する.
対象と方法
実習中の看護学生A(以下学生Aとする)と患者関係を分析し,学生Aの実習前後の精神障害に対する態度の変化を検討した.
結果
(1)実習前の精神障害に対する学生Aの態度および偏見:精神障害者は何を言ったり行動したりするのかわからないので恐ろしいという思いからコミュニケーションに不安と恐怖を感じていた.
(2)事例の概要:患者B氏80歳代男性嗜銀顆粒性認知症のため怒りやすさ,妄想,不機嫌症状あり.
(3)「患者-学生」関係の経過:実習初日,学生Aはカルテ情報から患者B氏が怒りっぽい性格と知りコミュニケーションをとることは困難だと避けていた.しかし,過去について毎回内容を変えて楽しそうに話すため受容・傾聴した.実習2週目に入浴をすすめると「行かん」と大声を出したため戸惑い,恐怖感を覚えたが,時間と一定の距離をとったことで拒否はなくなり一緒に入浴へ向かうことができた。その後徐々に学生Aの不安や恐怖感は減少し,自然体でコミュニケーションをとることができるようになった.
考察
精神障害に偏見がありコミュニケーションに不安と恐怖を抱いていた学生Aはカルテ情報から得た患者の性格に恐怖感が増し拒否的な態度へつながった.さらに,入浴時の大声の拒否も学生Aの恐怖心を増加させた.しかし,戸惑いながらも時間・距離を配慮し受容・傾聴を基盤としたコミュニケーションを継続することで良好な関係が構築され,患者に対するイメージが変わっていったと考える.坂田は「学生が受け持ち患者のところに足を運べない理由として,精神障害者に対する漠然とした恐れや不安のためなかなか向かっていけない,ということが考えられる.しかし,これは日が経つにつれ,その患者のことがわかるようになると解決される場合が多い」4)と述べている.学生Aがとったコミュニケーションスキルで築いた「患者-学生」関係は日ごとに患者の理解につながり,学生Aの態度変容につながったと考える.
まとめ
学生Aは精神障害者に対する偏見と患者情報から実習当初は拒否的な態度であったが,意識的なコミュニケーションによる患者理解により不安と恐怖感は減少し,態度変容につながった.
参考文献・引用
- 1)森ミツ子:精神科実習指導の課題看護学生が困った事のアンケートから.看護研究,15;22-32,1982.
- 2)坂田三允:精神科看護教育の特性と学生の意識実習で変わる学生の意識.看護教育,30;526-530,1989.
- 3)藤岡新治,高橋亨,伊藤末博他:精神障害者に対するイメージ変化の研究看護学生の精神病院実習の資料から.民族衛生,53;200-201.1987.
- 4)日本精神科看護技術協会編:精神科看護臨地実習の実際.初版.中央法規出版,東京,99,1999.