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2019年度 課題研究発表会
ポスター演題

嚥下前の咀嚼の有無が,健常成人の味覚に与える影響

キーワード:味覚咀嚼食物認知香気成分
言語聴覚士学科
久山 元気/古木 朋世/吉田 千紘/青木 熱志

はじめに

咀嚼は,食物を口腔内に取り込み,噛み砕き,唾液を混ぜ食塊形成し,嚥下に至る一連の過程で1),生命維持,食べる楽しみなど,生活の質(QOL)の面でも重要な意味を持つ.

嚥下障害患者へ嚥下調整食が提供されるが2),重量あたりの栄養低下,全量摂取困難,噛み応えが無く食思低下や低栄養となり得る3).

また認知症患者では咀嚼運動が行われず食物が口腔内に貯留する例も少なくない.一般に食物が放出する香気成分は,鼻孔で嗅ぎ鼻腔内の嗅皮質に結合する(orthonasalaroma)と,咀嚼時に上咽頭から鼻腔に到達し嗅皮質に結合する
(retronasalaroma)があり味覚と協調しているとされる4).この嗅覚の問題で食欲低下や嗜好変化が生じ,体重減少や栄養不足に陥る可能性がある.

咀嚼の有無による食物認知への影響を検討した研究はまだ少なく,本研究の目的は,食物の認知時間を測定することで食物認知に与える影響を検証した.

対象と方法

同意が得られた正常咬合を有する嚥下機能低下のない(質問紙EAT-10)健常成人40名(男20名,女20名)とした.対象に前処置(ノーズクリップ装着)を行い,咀嚼あり・なしの2群に分け,前者はゼリー(プロッカZnゼリー10ml)を口腔内に入れた直後1回の咀嚼を行わせ味を判断させた.後者には咀嚼なしで味を判断させ,2群の反応時間を計測した.

両群の平均反応時間を,Studentのt検定にて有意差を検討し,有意水準を5%とした.

結果

咀嚼あり群22名中11名が正答し,咀嚼なし群21名中14名が正答した.男女間では咀嚼あり群の男性で正答率が低い結果となった.正答者の平均反応時間は,咀嚼あり群は8.97秒,咀嚼なし群で14.22秒であった.2群間の統計学的な有意差は認めなかった(p=0.0522).

考察

今回の標本数では統計学的な有意差は認めなかったが,食物認知に必要な時間は咀嚼することにより短縮する傾向がみられた.このことは,視覚をはじめとする食物認知の促進要因に加え,咀嚼が嗅覚による食物認知を促進する因子である可能性が考えられた.また,咀嚼あり群の男性の正答率の低下は,男性が女性よりも庶糖の味覚閾値が高いことが影響した可能性がある.

今後は標本数を増やして検討を加えていく必要があると考える.

参考文献・引用

  1. 1)越野寿ら:各種食品の咀嚼前および嚥下閾食塊のレオロジー物性.日本咀嚼学会雑,16(1);11-16,2006.
  2. 2)栢下淳:嚥下調整食の分類について‐舌圧および栄養との関連‐.老年歯科医学,33(2);45-51,2018.
  3. 3)藤谷順子:食物形態と栄養サポート.日本リハ医学,54(2)116-120,2017.
  4. 4)小竹佐知子:食品咀嚼中の香気フレーバーリリースの測定.化学と生物.47(9);624-629,2009.

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