遊び場面を通して正常構音の汎化を図った ~機能性構音障害の1例~
はじめに
本校言語聴覚士学科では,地域貢献および学生の教育の場として学内に「ことばの相談室」を設けている.現在コミュニケーションや発音に関しての相談に地域の方が来校されている.
その中で,構音訓練により訓練中は正しい構音ができるにもかかわらず,日常生活での汎化が乏しい機能性構音障害の症例を経験した.今回この症例に対して遊び場面を通し,日常生活への正常構音の汎化を目指した分析・アプローチを行ったのでこれを紹介する.
対象と方法
症例は6歳男児.「発音がはっきりしない」ことを主訴に鳥取市中央保健センターの「ことばの相談会」に相談し,本校を紹介された.
初診時4歳10か月.発声発語器官の形態,聴力には異常を認めなかった.新版K式発達検査2001において,姿勢・運動領域DQ63,認知・適応領域DQ85,言語・社会領域DQ88,と運動発達にやや遅れが認められたものの,全領域DQ85と発達は正常範囲内と考えられた.構音評価においては,タ行,ダ行,サ行がハ行やワに,ナ行はバ行に置換していた.
構音訓練後の遊び場面に介入しながら現在の誤り構音の修正を促し,その様子を観察・分析した.遊びの内容として,運動遊び,微細運動遊び,言語的遊びを設定した.
結果
初回介入時には訓練中はタ行,ダ行,ナ行,サ行,ザ行は正常構音となっていた.遊び場面ではサ行がハ行やシャ行,ザ行はジャ行,ツはチュへ置換していた.主に運動遊びと言語的遊びの場面で多く見られた.
考察
遊び場面になると訓練ではできていた意識的な構音ができなくなり,誤りが出現していたと考えられる.特に周囲との言語的なやり取りが増える運動遊びと言語的遊びにおいてその傾向が見られた.また構音の汎化が進まなかった原因として,誤り構音の構音点と前後の音の構音点との距離が大きい場合に誤りが多いと分析された.構音点のわずかな位置の差が構音の汎化を妨げていると考えられた.この動きの差については運動発達の詳細な評価をする必要性が考えられた.
まとめ
正常構音の日常生活への汎化が困難な原因として,遊びなどの場面では構音へ注意がしにくくなるためと考えられた.そのため,周囲が注意喚起をしていくことで徐々に自己修正を促すことが正常構音の汎化に役立つと考えられた.また,汎化が困難なもうひとつの原因として構音の際の微細な舌操作のコントロールが難しいことが考えられた.今後,発声発語器官の運動機能を含め,微細運動の評価について多職種で検討,アプローチしていく必要があると考えられる.
参考文献・引用
- 1)阿部雅子:構音障害の臨床.金原出版,東京,32-41,2017.