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2019年度 課題研究発表会
口述演題

日刊工業新聞社賞

ロボットの活用を目指して ~ 一次予防における笑いと嚥下機能向上への効果~

キーワード:ロボット一次予防嚥下時間間隔
作業療法士学科
井口 恭宏/杉山 大地/山﨑 志保/山﨑 裕二/田渕 智也

はじめに

医療現場では,近年ロボットの活用が進んでいるが,生活支援・一次予防ではまだほとんど使われていない.本研究では,ロボットを一次予防へ活用するために,高齢者の問題の一つである嚥下機能に着目した.先行研究には笑うことにより嚥下機能が向上した報告がある.そこで本研究では,笑いによる嚥下機能の向上を目的としたプログラミングをロボットに入力し,人とロボットがレクリエーションを行うことでも笑いが起こり,嚥下機能の向上が得られるかを検証することを目的とした.

対象

対象者は介護福祉施設の利用者18名(男性3名,女性15名),平均年齢は87.5±7.1歳(72~98歳)であった.

方法

「Choregraphe(コレグラフ)」というソフトを用い,喋る・聞く・動くなどの動きの組み合わせた嚥下機能向上プログラムを作成,ロボットに入力し,30分間のレクリエーションを実施した.咽喉マイクロフォンとICレコーダーを用い,レクリエーションの実施前A(15分),実施中B(30分),実施後C(15分)の嚥下時間間隔(嚥下から次の嚥下までの間隔と定義)を計測した.統計解析としてBonferroniを用いて比較検討した.ロボットに対する対象者の心理的ストレスを調べる為に,客観的かつ主観的方法として唾液アミラーゼモニターを用い,実施前後のストレス値の増減率を計測及び,レクリエーション後にアンケートを実施した.

結果

対象群の嚥下時間間隔の平均は,レクリエーションの実施前は180±112.7秒,実施中は126±74.6秒,実施後は108±46.7秒であった.1AB間ではp<.052AC間ではp<.01であったことから,有意差が認められた.3BC間では有意差は認められなかった.さらに,ストレス値は実施前を100%とし,実施後は30%の軽減が見られた.アンケートからは「楽しかった「」今度はロボットとうたや踊りを一緒にしたい」等の好意的な意見が得られた.

考察

本研究では,ロボットの介入によって,嚥下機能向上が見られるかどうかを検討するため,嚥下時間間隔を計測した.

先行研究では,嚥下時間間隔が健常者群では122.6±28.6秒,部分介護者群では256.4±69.8秒との結果を示している.その結果と比較して,BとCにおいて嚥下時間間隔が,健常者群の値に近づいた結果が得られた.BC間で有意差が認められなかったのは,レクリエーションによる即時効果がみられたと考える.以上のことから,ロボットを用いたレクリエーションでも嚥下機能が向上することが検証された.

また,生活支援・一次予防におけるロボットの活用については,ストレス値の軽減が見られ,アンケートの結果からもロボットに対する受け入れが良かったことから,ロボットを活用する可能性が示唆された.

今後さらに,ロボットを活用しない場合との比較,またレクリエーション以外にも一次予防の中でロボットが効果的に活用できる場面を模索し,ロボットの有用性を明確にする必要があると考える.

参考文献・引用

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