menu

2020年度 課題研究発表会
ポスター演題

片側膝関節屈曲制限が立ち上がりに及ぼす影響

キーワード:下腿前傾体幹前傾立ち上がり膝関節屈曲制限
理学療法士学科
尾崎 巽/河内 裕慧/黒田 悠斗/中井 康太

はじめに

椅子からの立ち上がり動作は座位から歩行動作に至るまでの非常に重要な動作である.整形疾患や中枢疾患などを有する多くの患者において可動域制限などにより動作遂行が制限されると日常生活において生活の質が低下する大きな要因となる.そのため,本動作に関する研究も多く行われており,様々な視点から見解を得ることができる.今回我々は,外傷性膝整形疾患を想定した片側膝関節屈曲制限の有無が立ち上がり動作時の体節前傾角度に与える影響について,臨床での治療展開における一助とすることを目的に研究を行った.

対象と方法

対象は両下肢に既往及び現病歴のない右下肢を利き足とする健康若年健常者10人とした.膝関節を制限するためにDonjoy社製膝用硬性装具を右膝関節に装着し,最大屈曲角度90°・80°・70°に設定した状態と装具非装着の4条件で立ち上がり動作を行った.

座面の高さは,両股関節,膝関節の角度が90°になるように昇降ベッドを調節し,昇降ベッドの端から15cmの位置に印をつけ,印の真上に被験者の大転子がくるように端座位をとらせた.両上肢は胸部の前で組み,背筋を伸ばすよう指示した.また目線を対象者の正面に設置した目印を注視してもらった.動作速度はメトロノームを使用し,2秒かけて立ち上がり3秒立位保持してもらい,動作終了とした.左側矢状面より,酒井医療器製マイオビデオHDを設置し,マーカーを肩峰,大転子,膝関節外側上顆,腓骨外果,第五中足骨骨底に貼り,離殿直後の体節前傾角度を計測した.統計処理はエクセル統計にて,各関節における4群間での多重比較検定を行い,危険率5%以下とした.

結果

各関節における4群間において,統計学的な有意差は認められなかった.しかし膝関節最大屈曲角度70°の時に限り,足関節の底屈角度の体幹前傾角度がわずかに増加した傾向が認められた.

考察

膝関節屈曲制限がかかると立ち上がり動作時に重心の前方移動相において下腿の前傾が制限され,代償として体幹の前傾角度を増加することで重心の前方移動を行うことが考えられた.しかし体幹の前傾角度に有意差を認めず,また運動連鎖的な視点での足関節背屈角度も有意差は認められず,下腿の前傾角度に影響を及ぼすには至らなかった.本研究において代償動作の起こる角度を求めることはできなかったが,結果から一側膝関節最大屈曲角度70°あれば正常に近い立ち上がり動作を行うことができることが示唆された.

膝関節最大屈曲角度70°の時に下腿前傾角度のわずかな減少が認められ,膝関節最大屈曲角度を60°,50°と減少させると下腿の前傾も比例して減少することが考えられる.浅井らの研究では体幹前傾角度が大きくなると股関節伸展モーメントも大きくなることが報告されている1).このことから膝関節最大屈曲角度が70°未満の場合においては股関節伸展モーメントが重要となると考えられる.

今後,代償動作を検討していく上で体幹や骨盤の回旋運動や初速の変化による代償についても検証していく必要性を感じた.

まとめ

我々は立ち上がり動作の片側膝関節屈曲制限時における影響について検討した.その結果,立ち上がりにおいて一側下肢に70°以上の関節可動域があれば正常に近い立ち上がりができることが示唆された.今後の課題として起立動作時の骨盤回旋運の影響や,膝関節屈曲制限の角度を減少させた際の代償動作を検証していきたい.

参考文献・引用

  1. 1)浅井葉子,石井慎一郎,柳澤健,他:立ち上がり動作における膝関節伸展運動の分析.2001

ページトップへ戻る

close