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2020年度 課題研究発表会
ポスター演題

速度感覚が歩行速度に与える影響

キーワード:オプティカルフロー周辺視野歩行速度自己運動感覚
理学療法士学科
上山 功/西原 有司/西垣 風香/安田 里緒

はじめに

高齢者の転倒原因には下肢可動域(ROM)の減少や下肢筋力低下など身体機能の低下があり1),それらへの治療が歩行獲得に重要といわれている2).その治療法として,ROM訓練などに代表される分習法があるが,全習法に比べ治療効果が少ないと考えられている3).全習法では,分習法に比べ,様々な要素に対し治療が可能となる.しかし,習慣化された歩行様式での全習法では変化を与えることは不可能である.そのため,全習法によって歩行様式に変化を与えることができれば,効率よく歩行への治療が可能となることが予測される.オプティカルフローは自己運動感覚や周辺視野と関連し歩行速度の向上に影響を与えるとされている4).そこで今回,効率よく歩行速度を向上させる訓練方法の開発目的として,オプティカルフローを利用した歩行速度の調査を行った.

対象と方法

本研究は18-36歳の健常者36名を対象とした.測定方法として助走を含めた16mを最大歩行速度で歩行し,中央10mを測定した.課題として,A:周辺視野を遮断(視野を半径6mmに設定)環境下での歩行,B:横縞模様のシート(25cm間隔)上を歩行,C:通常歩行を実施し,各状況下で計測した.統計処理は,Kruskal-Wallis検定を行い,主効果が有意であった場合,多重比較法としてTukey検定を用いて検証した.有意差検定での優位水準は5%未満とした.

結果

平均歩行時間は,A=5.34,B=4.50,C=4.42であり,Kruskal-Wallis検定の結果,各グループ間に有意な相関を認めた(H=31.097940,1<0.01).また,Tukey検定の結果,A対Bで危険率1%未満(p<0.01)となり,帰無仮説が棄却され,対立仮説が採択された.B対Cでは危険率5%以上となり帰無仮説が採択され,歩行時間は同程度であることが示された.

考察

課題Aで歩行速度が低下した要因として,オプティカルフローを排除されているため,移動距離が認識できず恐怖感が高まることで歩行速度が低下すると考えた.課題Bでは,先行研究に比べ視覚刺激の間隔が大きく,周辺視野制限の設定も不十分であったことで,三次元的視覚刺激が強調できなかった可能性が挙げられる4).そのため三次元的視覚刺激が減弱し,課題Cに比べ歩行速度が低下したと考えられる.しかし本研究の結果から,先行研究で述べられている三次元的視覚刺激が歩行速度に奏功を与える可能性が示唆され,先行研究と同様の環境設定での歩行訓練は通常課題での歩行に比べ,歩行速度が上昇する可能性が十分に考えられる.

本研究で模索している歩行訓練用シートは,先行研究で用いられているような特殊な機材が必要なく簡便に行える全習法歩行訓練となることが予測される.今後,本邦では超高齢化社会を迎え高齢者の転倒予防,健康増進が必要となる.そのため本研究のような特殊な技術・装置が必要のない歩行訓練器具の開発を検討していくことが課題であると考える.

参考文献・引用

  1. 1)村田伸在宅障害高齢者の身体機能・認知機能と転倒発生要因に関する前向き研究.理学療法学33(3);102,2006
  2. 2)関屋曻正常歩行における歩行速度,歩行率,歩幅の相互関係.理学療法学21;416,1994
  3. 3)石川朗(総編)理学療法テキスト神経障害理学療法学I.pp96-99,2011.
  4. 4)加藤典之歩行応答と知覚応答による誘導性自己直線運動の知覚速度の測定.光学34;597-605,2005

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