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2020年度 課題研究発表会
ポスター演題

家族への感謝の言葉を伝えようとする終末期患者への援助

キーワード:家族気がかり終末期
看護学科
深田 理奈

はじめに

終末期にある患者と家族が相互交流の中で充実した時間を持てるよう,患者と家族が希望する家族らしく過ごせる時間を確保できるように環境を整え援助していくことが大切である.1)今回,終末期の患者のA氏は「家族に感謝の気持ちを伝えたい。家族にはたくさんの苦労をかけた」と涙ながらに訴えた.家族への思いをどのように伝えたらよいのか一緒に考え,実践した.終末期患者と家族が安心できる空間を創る支援についての一考察を報告する.

対象と方法

対象:A氏,70歳代,
男性診断名:スキルス胃がん経過:三年前にスキルス胃がん(ステージIV)と診断され,一か月前に病状が悪化し,自宅からA病院の緩和ケア病棟に入院.疼痛時は麻薬のアンペックを点滴投与.呼吸困難あり酸素2l投与中.同居家族は妻と娘.県外には息子夫婦と孫が生活している.妻と娘は毎日のようにA氏に面会に来ており,家族関係は良好.

結果

受け持ち当初,血圧は低く,呼吸困難感があり,夜間には急な心窩部痛で寝不足が続き,日中はほぼ臥床している状態であった.一人の時間や夜間になると,これまでのことを思い出し,涙を流す姿や,感情失禁が見られた.受け持ち5日目に,「ママには苦労をさせた」「家族に感謝の気持ちを伝えたい」と発言があったため,家族に想いを伝える方法をA氏と一緒に考えた.最初は,手紙を書いて想いを伝える方法を提案したが,A氏は手紙を望まなかった.そのため,面会時間ごとに少しずつ想いを伝える方法を提案した.A氏も納得したため,家族が面会に来られた時に,面会時間ごとにゆっくりと思いを伝えることになった.家族が面会中は,家族との時間を大切にし,見守った.受け持ち8日目,実習最終日にA氏から「昨日の夜にしっかり想いをお母さんに言ったよ」と笑顔で話してくれた.

考察

A氏は今まで仕事により,家族との時間を十分に確保できず,家族には苦労をかけたと「気がかり」を抱えていた.A氏に気がかりや想いを吐き出してもらい,傾聴することに努めた.それは,A氏の想いが明確にされ,家族へ感謝の想いを伝える方法をA氏と具体的に考え,行動へ導くことができた.正井らは,終末期がん患者が家族での充実した時間を持ちたいと考える時,家族の絆を深める空間,家族の心の交流の場を創ることで家族らしい日常を過ごすことができる2)と述べている.家族と共に語り合う時間を意識的に看護者側が創ることにより,A氏は気がかりだった自分の想いを伝える機会を得て,気持ちを確認し,通じ合えていると実感した.それが安心感に繋がったと考える。A氏にとって,家族と過ごす時間は,安らぎの場であり,心窩部痛の緩和や良眠にも繋がり,辛い状況の中でも患者や家族の笑顔が増えたと考える.

まとめ

A氏と家族が安心できる空間を創ることは,A氏にとって家族への気がかりや感謝の言葉を伝える機会となりA氏の安心感にも繋がった.

参考文献・引用

  1. 1)2)正井志穂:終末期がん患者と家族の心の交流の場を創る支援~Enrichmentと穏やかさの視点から~.がん看護,23(3),315~320,2018

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