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2020年度 課題研究発表会
ポスター演題

生きる意欲が低下した終末期患者に対する意欲向上への取り組み

キーワード:意欲向上生きる意欲苦痛
看護学科
中嶋 真紀

はじめに

終末期には,身体的苦痛,心理的苦痛,社会的苦痛,スピリチュアル的苦通が生じ,QOL低下につながる.受け持ち患者A氏に,疾患に伴う症状の観察や清潔援助,コミュニケーションによる思いの傾聴,生きがいや趣味へのアプローチを行い,意欲の向上がみられた.今回,その過程を振り返り,援助とその効果について考察する.

対象と方法

対象:A氏80歳代男性.
診断名:尿路感染症改善後,誤嚥性肺炎を発症.経過:度重なる感染症により体力が低下,経口摂取も安定せずベッド上生活となり胃瘻を造設.セルフケアはほぼ全介助を要する.疾患による苦痛や体力の低下により,自分で行えていたことができなくなり,自尊心や生きる意欲が低下していた.

看護の実際

A氏の苦痛を少しでも軽減するため,痰の貯留時は看護師に報告し,早急に痰の除去ができるようにした.痰の吸引後は,患者の頑張りを認め労いの声かけを行った.A氏は病気によって,身の回りのことができなくなったことにより,「情けない」「あの世に行きたい」などの発言があった.これに対し,清潔援助の際,自分で顔を拭くことや,ベッド柵を把持して側臥位を保つことを提案し,できることに目を向けて関わった.また,A氏の孤独感の訴えには訪室時傍で手を握ることも行った.ベッドサイドにはA氏の唯一の生きがいである県外に住む曾孫の写真が飾られていた.写真を用いて患者の生きる意欲の向上を図るため,写真を見せながら曾孫への思いの傾聴を行った.「ひ孫に会いたい」という発言が見られた.また,A氏はかつて旅行が趣味であったため,観光地の写真を見てもらうと,「また旅行がしたい」という発言と笑顔が見られた。このような関わりの結果「もう少し頑張って生きたい」などの発言があった.

考察

そばにいることについては人が全身全霊を傾けて,ある人の傍らに立会い,人間相互の出会いを通じて他人の経験を受け入れる方法である1).A氏の傍で,疾患によって生じた苦痛や思いを傾聴し,つらさを受容する姿勢が,A氏との信頼関係構築につながったと考えられる.また,村田は,終末期患者の「スピリチュアルペインとは,自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛であり,生の無意味,無価値,孤独と不安など,多様な苦痛として表現される」としている2).A氏の自分で身の回りのことが行えない気持ちを受容し,まだできることを見出すこと,寂しさを軽減するため傍で手を握ること,A氏らしさや趣味を引き出し,生きる意味を共に見つける努力をしたことが孤独感や自己に対する無価値の感情からの回復につながったと考えられる.

まとめ

A氏の傍で思いを理解し,残存機能に目を向け,趣味やA氏らしさを引き出したことは,生きることへの価値を見出し,意欲向上へのきっかけとなった.

参考文献・引用

  1. 1)2)梅田恵・射場典子:緩和ケア.尊厳ある生と死,大切な生活をつなぐ技と心,南江堂,7,95-96,2018.

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