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2020年度 課題研究発表会
ポスター演題

「ことばの相談室」対象児29例における構音の誤り方に関する分析

キーワード:構音発達機能性構音障害誤り構音
言語聴覚士学科
井戸垣 篤征/黒川 三郎/寺本 慧

はじめに

本校言語聴覚士学科では,地域貢献および学生の教育の場として学内に「ことばの相談室」を設けている.現在,言語聴覚士学科の教員がコミュニケーションや発音に問題を抱えている人々を対象とした相談・訓練を行っている.

「ことばの相談室」で最も多い相談は機能性構音障害であるが,近年の研究や報告が少ない現状がある.そこで,訓練対象児の構音を分析し,過去の文献との検証を行うことで,現在の機能性構音障害の傾向や,今後の課題を検討したので報告する.

対象と方法

分析対象は2017年6月から2019年7月末までに「ことばの相談室」を利用し機能性構音障害と判 断された3歳~8歳の児童29名(男子14名,女子 15名)とし,初回相談時に録音された構音評価の 音声をもとに分析した.

評価には構音の誤りを抽出する検査である「新版構音検査」と「ことばのテスト絵本」の呼称を用いた.その音声をもとに構音を分類し,構音の誤り方の特徴,さらに年齢や性別における構音の誤り方の違いを分析した.

結果

構音の誤り方を分析した結果,聴覚判定に基づく誤りとして,目標音が他の音に置き換わってしまう「置換」の誤り方が16例,子音が構音されない「省略」が1例,「置換」と「省略」が重複しているものが7例となった.また,構音操作の異常に基づいて判定される異常構音については5例と少数であった.

誤り構音のうち相談の多かった4歳,5歳の置換について詳細な分析をした結果,破裂音/k//g/,摩擦音/s//ɕ/,破擦音/ts//dz/,弾音/r/の誤りが多く見られた.

男女で大きな差があったのは弾音/r/であった.4歳男子では80%,5歳男子では60%の割合で,一方5歳女子では33%,4歳女子では17%の割合で置換していた.また,置換の傾向を分析すると破裂音,摩擦音,破擦音のいずれにおいても男子は置換している音の種類が多いことが分かった.

考察

構音の誤り方については,視覚的に構音操作を確認しにくく,複雑な動きが必要になる音の動作が獲得されにくいことが考えられ,多田ら(2003)による構音発達の調査と同様の結果であった.

また,構音器官の発達について,挺舌は2歳2か月頃に獲得されるのに対し,舌尖挙上は3歳10か月以降と,舌の動きの中でも獲得に時間を要すため,弾音の構音発達にも影響を与えていると考えられた.

男子の方が置換される音に浮動性がみられたのは,音韻意識の弱さも考えられたが,症例数が少なく分析に至らなかった.

まとめ

先行研究や報告と比較して,構音発達や構音の誤り方に大きな変化は見られなかった.しかし,機能性構音障害についての研究は多くないため,今後症例数を増やしデータを蓄積させていくことで,より正確な構音発達や誤り構音の傾向,およびその要因が分析・検討できると考える.

参考文献・引用

  1. 1)多田節子他:機能性構音障害99例の構音訓練.コミュニケーション障害学,137-144,2003
  2. 2)笹沼澄子編:ことばの遅れとその治療.大修館書店,72-93,1979

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