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2020年度 課題研究発表会
口述演題

滋慶教育科学研究所 奨励賞

粗大な上肢運動が若年健常者のバランス能力に与える影響

キーワード:バランス能力上肢運動若年健常者
作業療法士学科
森本 雄陽/難波 智大/松本 一希/平田 大祐/法橋 輝/舩越 七海

はじめに

バランス能力向上を目的とした体幹・下肢への介入は広く認知されているが,作業療法では上肢に介入することが多い.そこで,上肢運動によりバランス能力の向上が期待できるのか,若年健常者への影響を実験的に調査した.

対象

本研究に同意が得られた本学科学生の健常者18名(男性9名,女性9名)とし,年齢19.0±2.5歳(平均値±標準偏差)であった.

方法

バランス能力評価指標にはFunctionalReachTest(以下FRT),TimeUpandGoTest(以下TUG)を用いた.効果の有無を検証する上肢運動は,頭部・体幹・下肢の動きを最小限に抑えるため背臥位として,両肩関節90°屈曲位にて両手で反対側の肘を掴ませた状態から両手を左右へ可動域いっぱいに反復させる粗大な両側動作とした.運動のタイミングは60BPMのメトロノームのリズムで2秒ごとに1往復させ,1分間繰り返しさせるものとした.

擬似的実験デザイン法による時系列デザインで分析するため,FRT・TUGの測定は,1上肢運動なし前,2上肢運動なし後,3上肢運動あり前,4上肢運動あり後,5上肢運動なし前,6上肢運動なし後の計6回実施した.2-3間,4-5間は1週間以上の十分な期間を空けた.1-2間,3-4間,5-6間の時間配分は,バランス能力評価や上肢運動による介入の有無などによって差が生まれないよう,予め各実施項目のタイミングを決めて実施した.

1-2間,3-4間,5-6間に有意差を認めるかどうか,統計解析はMicrosoftExcel2019を用いたt検定で実施した.

結果

FRTについては,1-2間と5-6間では有意差を認めなかったが,3-4間では+3.27±3.76[cm]で強い有意差を認めた(0.01>p).

TUGについては,1-2間で-0.20±0.37[秒]で有意差を認め(0.05>p),3-4間で-0.23±0.26[秒]で強い有意差を認め(0.01>p),5-6間で
は有意差を認めなかった.

考察

今回,バランス能力評価指標として上肢リーチのパフォーマンス課題であるFRT,歩行を伴うパフォーマンス課題であるTUGを実施した.今回行った上肢運動は,肩甲胸郭関節を中心とした,胸鎖関節・肩鎖関節・肩甲上腕関節の複合運動であり,一定リズムで反復させることで上肢可動性・運動性の向上,上肢運動を支えるための体幹支持性向上による体幹運動性の向上などが期待できる運動であった.

FRTにおいては3-4間でのみ強い有意差を認めたことから,今回行った上肢運動が上肢リーチのパフォーマンスとしてのバランス能力に何らかの好影響を与えていると考えた.

TUGにおいては,1-2間では対象者の1/3程度が初めてのバランス能力評価であったため,努力歩行という課題遂行に対する正しい認識ができないまま実施していたのではないかと考えた.今回行った上肢運動は,歩行に関する上肢の振り運動や体幹機能に何らかの好影響を与えたため,3-4間では強い有意差を認めたと考えた.

今回は若年健常者に対象者を限定したが,作業療法場面で対象とすることの多いバランス能力低下者への影響を調査することで,上肢運動性への介入に対する目的が変化するのではないかと考える.

参考文献・引用

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