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2020年度 課題研究発表会
口述演題

呼吸筋へのテーピングが肺活量に及ぼす影響

キーワード:テーピング呼吸筋肺活量
理学療法士学科
中澤 優志/河嶋 彩香/坂本 凜/福田 優羽

はじめに

近年高齢化が進み,慢性気管支炎,肺気腫,肺癌など著しい増加をみせており,このような社会情勢に鑑み1)呼吸理学療法が注目されている.呼吸は生命維持に必要不可欠なものであり,中でも筋は呼吸運動に大きく作用している.呼吸リハビリテーションで行われている呼吸筋トレーニングなどの徒手療法は,熟練した技術が必要となるため難易度が高く,理学療法士の技術により格差が生じると考えられる.これらのことから,比較的容易に行える呼吸筋へのアプローチ方法がないかと考え研究を行った.

対象と方法

1)対象
非喫煙者で,整形外科的疾患・呼吸器疾患がなく腹部に問題の無い健常男性20名(18歳~25歳)
2)方法
キネシオロジーテープを使用し,宮﨑ら2)が考案した簡易に腹部引き込み動作を誘導できる腹横筋賦活テーピング(abdominalmusculatureactivationtaping:AMAT)を用い,テーピングを貼付した状態としていない状態の二通りで電子スパイロメーターを使用し努力性肺活量を測定した.また,この時メジャーにて胸郭拡張差も測定した.テーピングの貼付方法は,臍部の3横指遠位から第11肋骨下端を通り,背側上方に押し上げるように左右2枚ずつ半円状に貼付した.温度の影響を一定にするため室内温度は26度~28度と設定した.腹部に締め付けのない服装で,肢位は足底を床面につけ骨盤中間位で座位にて測定を行った.事前に練習を1回行った後,計2回測定し,最大値を採用した.胸郭拡張差は,足達ら3)の方法を採用し安静立位にて,腋窩高,剣状突起高,第10肋骨の3か所を測定した.各部位の最大吸気位と最大呼気位の胸郭周径の差を胸郭拡張差とし,平均値を採用した.

結果

肺活量(VC) 前4.3205±0.597587 後4.7195±1.282089 危険率5%で有意な差は見られなかった.
努力性肺活量(FVC) 前4.133±0.749280 後4.476±1.137293 危険率5%で有意な差がみられた.
1秒量(FEV1) 前3.443±0.682242 後3.685±0.520905 危険率1%で有意な差がみられた.
予備呼気量(ERV) 前1.368±0.321928 後1.6095±0.932238 危険率5%で有意な差は見られなかった.

考察

「努力性肺活量」と「1秒量」については,努力呼気時には,腹直筋・内外腹斜筋・腹横筋といった呼吸補助筋が用いられるため今回の研究でテーピングにより筋収縮が促され,腹腔内圧が上昇し「努力性肺活量」および「1秒量」の向上につながったと考えられる.また,肺活量と胸郭拡張差で大きな効果は見られなかったことに対し,解良ら4)は呼吸筋力が正常以上で標準的な肺・胸郭であれば呼吸筋力の多少の増減は肺活量にあまり影響を与えないとしている.安静吸気は横隔膜の収縮によって行われ,呼気は筋肉を用いず伸展した肺の受動的反跳によって行われるため健常者には大きな効果が無かったと考えられる.

一方で,閉塞性換気障害(COPD)患者では呼吸筋・呼吸補助筋が過度に活動しており,肺活量に比べて努力性肺活量が著明に減少することも重要な所見とされている.そのため,今回行った研究にてFVCとFEV1が向上していたことよりCOPDに対する効果が期待できるのではないかと考えられる.

今後の課題として,対象者の年齢層の幅を広げて行うことや今回衣服を脱いで行う必要があり,男性にしか行えなかったため環境調整に配慮し女性にも検証してみる必要があると考えられる.

まとめ

1)AMATを用いてテーピングが肺機能に及ぼす効果について検証した.
2)テーピングなし,ありと比べてFVC(p=0.05),FEV(p=0.01)と有意な差を認めた.
3)AMATを用いることでFVC及びFEV1の向上が見込めるため,COPD患者に対して呼気を容易にできる可能性が考えられた.

参考文献・引用

  1. 1)一般社団法人日本呼吸器学会HP https://www.jrs.or.jp/modules/citizen/index. php?content_id=75
  2. 2)宮﨑哲哉・他:テーピングを用いた腹横筋収縮法の試み:外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋の筋厚変化に着目して体力科学68(1):65-69,2019
  3. 3)足達大樹・他:地域在住高齢者における肺活量と胸郭拡張差との関連胸郭全体の拡張差を考慮した指標による検討第49回日本理学療法学術大会抄録集
  4. 4)解良武士・他:呼吸筋トレーニングによる持久性能力向上の可能性理学療法科学24(5):767-775,2009

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