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2020年度 課題研究発表会
口述演題

日刊工業新聞社賞

頚髄損傷患者への生活史を取り入れた QOL の向上 ~生きがいであった手話を取り入れた関わりを通して~

キーワード:コーン脊髄患者障害受容
看護学科
森 七海

はじめに

障害の受容にいたるプロセスは,痛々しく,長い経過の中で紆余曲折が見られるが,全体的に見た場合,危機を乗り越え,障害を受け入れていこうとする一定の方向性が見られる1).今回,頚髄損傷により障害が受容できず自己を否定的に捉えがちな患者に,生きがいとしていた手話を取り入れた関りを行った.障害受容の心理過程に与えた影響について考察した結果を報告する.

対象と方法

対象:A氏.70歳代.男性.
診断名:頚髄損傷,褥瘡.
経過:1年前頚髄損傷による褥瘡治癒目的で転院を繰り返す.四肢体幹運動麻痺,両下肢麻痺,胸郭運動障害により酸素吸入施行中.自助具を使用し食事自力摂取可能,その他ADLは全介助.家族は県外在住.関係性は良好.定年退職後は地域のために活動し手話を7年間指導した.

看護の実際

受け持ち初日,A氏は自身の障害やこれまでの生活について私に涙ながら語った.私は,A氏の話を聴き日々苦痛を抱えながらも本日まで過ごされていることに労いの言葉かけや共感的姿勢で接した.また,A氏が障害を1人で抱え込むことがないよう,苦しい時や悲しい時はいつでも支えになることを伝えた.手指の拘縮により,生きがいである手話も思うようにできなかったが,意欲を引き出すため,手話を取り入れたコミュニケーションを行った.始めは活動を促しても断られていたが,少しずつ受け入れられA氏の希望に沿いデイルームで好みの音楽に合わせて,手話を一緒に行うようになった。看護師や私に手話を教え「懐かしいなあ」と笑みを浮かべた.また「もっと人の役に立ちたい」との発言も聞かれた.デイルームへの移動も日を追うごとに外の景色が見えること,手話を楽しむこと,他患者との会話が増え「今日も行こう」と意欲的に過ごすようになった.

考察

危機・障害受容のプロセスをコーンは1ショック2回復への期待3悲嘆4防衛/回復への努力5適応の5段階としている.受け持ち当初A氏は障害の重さを受け入れられない状態であり,自己を否定的に捉えていたことから第3の悲嘆の段階であった.A氏に生きがいである手話を取り入れたコミュニケーションを行うことは,手話を看護師,私に指導している現在の自分と受傷前の生活を重ねる時間であった.また障害があっても自己表現は可能であり,自分の人間性までは損なっていないと障害を受容するきっかけになったと考える.障害の適応への介入として生活に自信を与え,役割獲得への援助が必要である2).離床時間や他者との交流増えたことは,QOLの向上であり再び人の役に立ちたいという発言から徐々に障害を受け入れ,ともに生きていく努力を始める第4の防衛/回復への努力の段階へと変化したと考える.

まとめ

A氏にとって生きがいである手話を取り入れることは個性や生活史を尊重することであり,障害があっても生きる意味を考え自己肯定感とQOL向上へつながった.

参考文献・引用

  1. 1)2)小島操子:看護における危機理論・危機介入.金芳堂,京都,65,71,2018.

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