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2021年度 課題研究発表会
ポスター演題

オプティカルフローを利用した歩行速度の変化

キーワード:オプティカルフロー歩行速度視覚刺激
作業療法士学科
青木 皆人/福島 拓実/森 慶次/門木 万裕子

はじめに

要介護状態になる原因の1つとして,高齢者による虚弱がある.虚弱の原因として,サルコペニアがあり,生活機能の低下や転倒・骨折リスクの増加と関連性が認められている1).転倒を予防するためには歩行の質(歩行速度)を高める必要があるため歩行能力に着目した.

まず,人の体感速度は自己の身体感覚から得られる情報に基づき,中でも視覚情報の重要性が高いといわれている.視覚情報は外環境からの光が,目のレンズで網膜像に結像することによって得られる.この網膜像への映り方の違いにより自己の運動がどのようなものであるか認知している.前方の一点を見て歩行を行う際に,視野中心から放射状に広がっていく動きのパターンが網膜像に映し出される.このような動きのパターンはオプティカルフローと呼ばれる2).

山下ら3)の研究では提示するオプティカルフローが速くなると,体感速度も速くなるといわれている.また,一定の速さで歩行を行った際オプティカルフローの速さが速くなることで歩行速度が上昇した.そのため,最大速度歩行とオプティカルフローを強調した環境での最大速度歩行を比較し,歩行速度及び歩行速度上昇を目的とする.

対象と方法

本研究は18~30歳の健常な男女26名を対象とした.測定方法は加速期を含めた16mを最大速度歩行で歩行し,中央10mを測定した.課題は,A:黒色シート上での通常歩行B:横縞模様シート上(間隔50cm,色は赤と黒に設定)で鏡を固定したヘルメット型ヘッドセットを装着し歩行を実施.I群AからB,II群BからAを行う.統計処理は対応のあるt検定を行い,危険率を5%以下とした.

結果

平均歩行速度及び歩数はA=5.59秒,12.91歩,B=5.43秒,12.65歩であった.対応のあるt検定の結果,歩行速度上昇(t=6.65p=0.007)歩数の減少(t=7.84p=0.004)とBに有意な差を認めた.

考察

今回,オプティカルフローを強調したBとなにもしていないAの10mの歩行速度を比較した結果,Bに有意な差を認めた.

人の体感速度は自己の身体感覚から得られる情報に基づいている.その中でも視覚にある周辺視野領域の動きが大きな影響を及ぼすといわれている3).そのため,オプティカルフローを強調させた視覚刺激を入力することで,体感速度が速くなり,視覚情報と体性感覚の統合に誤差が生じた.その結果,身体図式に歩行速度が上昇したと誤った認識を与え,運動前野に歩行速度が速くなったことを誤認させた.運動前野は歩行速度に合わせた運動プログラムを一次運動野へ伝え,その情報を基に速度感覚に合わせた身体活動を行った結果,Aに比べBで歩行速度が上昇したと考える.このことから,視覚刺激を用いた歩行への介入は即時的な効果があり,非常に有用であることが示唆された.

本研究の課題として,高齢者を対象とした検証,そのためのヘッドセットの軽量化やシート素材の検討などが残った.今後は刺激提示の方法としてVRの使用や,高齢者施設での検証の必要性を感じた.

参考文献・引用

  1. 1)奈良勲ら:理学療法・作業療法学専門基礎分 野老年学.改訂第5版,医学書院,東京,117-119, 2018.
  2. 2)西野仁雄ら:運動の神経科学-基礎から応用 まで.NAP,東京,72-73,2000.
  3. 3)山下真由ら:Ocuduss:オプティカルフロー制 御による速度感提示デバイス.情報処理学会イン タラクション2017論文集;745-748,2017.

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