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2021年度 課題研究発表会
ポスター演題

座位での頸部・体幹の立ち直りが 呼吸機能および胸郭可動域に及ぼす影響

キーワード:下部胸郭胸郭拡張差腰方形筋骨盤後傾
理学療法士学科
泉 龍成/田中 暁久/武庫山 真綾

はじめに

臨床上,整形疾患患者や脳血管疾患患者の座位姿勢において,体幹が屈曲・回旋・側屈位を呈している症例が多く報告されている.先行研究より体幹の側屈や回旋により胸郭の形態が変形することで呼吸運動を制限していると述べられている.体幹側屈・回旋と呼吸機能の関連性についての報告はあるが,臨床上,よく観察される骨盤が後傾・傾斜し,頸部・体幹が立ち直った姿勢が呼吸機能に及ぼす影響について調べた研究は少ない.そこで,本研究では健常者を対象として体幹・頸部立ち直りが胸郭拡張差,呼吸機能に及ぼす影響について検討する.

対象と方法

本研究は18-25歳の健常者34名を対象とし,整形外科的疾患・呼吸器疾患を有する者,喫煙者を対象除外とした.測定肢位は,1直立座位2座位での最大骨盤後傾位3最大骨盤後傾位に左右15度、30度骨盤傾斜を加えた肢位とした.被検者は測定時に傾斜台より2m先の印を注視するように促し全被検者の頭頚部の立ち直りの位置を統一した.呼吸機能はスパイロメーターを用いて肺活量を計測した.胸郭拡張差は測定位置を腋窩,剣状突起部,第10肋骨部とし測定前に目印となるシールを貼り,最大呼気・吸気時の胸郭拡張差にはメジャーを用いて,測定肢位の順番を変更し1日で1人の,全測定肢位での胸郭拡張差と呼吸機能を測定した.統計処理は,最大後傾位での左右骨盤傾斜0度,15度,30度での胸郭拡張差と各肺気量についてシャピロウィルクの検定を行い,正規性を確認し,反復測定の分散分析またはフリードマンの検定を実施した.主効果が認められた場合は多重比較法にて解析した.

結果

1)胸郭拡張差:剣状突起では直立において増加がみられた.第10肋骨では骨盤後傾位で増加がみられ,右15°>左15°と同角度でも左右差がみられる結果となり,姿勢間で有意差を認めた(p<0.05).また,平均値においても傾斜角度が増すにつれ,拡張差の減少傾向がみられた.
2)呼吸機能:呼吸機能には有意差を認めなかった.

考察

呼吸機能に有意差は認められなかったが,胸郭拡張差では,剣状突起・第10肋骨の下部胸郭で有意差が認められた.正保ら1)は胸郭拡張差が上部胸郭,下部胸郭で同じ変化量を示しても,体積では上部胸郭の方が下部胸郭より大きく変化することを意味し,上部胸郭の可動性が換気量に大きく影響することを報告している.今回は腋窩の拡張差に有意差がなかったことから,上部胸郭の可動性が得られず呼吸機能に有意差が認められなかったと考える.横木ら2)は,Neutral坐位姿勢時の胸郭運動と比較し,骨盤後傾において上部胸郭左右拡張が起きにくくなり,下部胸郭左右拡張が起きやすくなると述べていることから,骨盤後傾位では上部胸郭に近づくほど胸郭拡張差が減少したと考える.第10肋骨で右15°>左15°と右側で優位差が認められたことについて,腰方形筋は強制呼気時において,第12肋骨を固定することにより横隔膜の後方の肋骨部の付着を固定し,胸郭を固定させるカウンター作用がある.胸郭左側方偏位に伴う左側のwrappingactionの機能低下により第12肋骨の内下方作用の低下が腰方形筋の機能低下を引き起こし,また,被検者の約90%もの割合にて胸郭が左側方偏位を呈する報告があることから,胸郭左側方偏位の症例が多いことで左腰方形筋の機能低下が生じ右側への立ち直りで有意な結果を生じたと考える.今後の課題として,胸郭位置などアライメントにも着目していくことが必要だと考える.

参考文献・引用

  1. 1)正保哲ら:胸郭拡張差と胸郭体積変化の関連性,理学療法科学,29(6);881-884,2014
  2. 2)横木貴史ら:骨盤及び胸郭の変位が胸郭運動に及ぼす影響について,第48回日本理学療法学術大会抄録集

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