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2022年度 課題研究発表会
ポスター演題

統合失調症患者との信頼関係構築についての一考察

キーワード:信頼関係統合失調症自己一致
看護学科
澤田 美穂

はじめに

「患者には常に優しく接しなければならない」という暗黙のルールが医療者の動きを不自由にしていると言われている.だが患者の多くは優しいけど言うべきことは言う看護師を信頼しているというパラドクスがある.このように医療者と患者との思いの違いから信頼関係の構築に悩むことは多い1).今回,統合失調症の患者を受け持った.コミュニケーションの方法に困っていたが,ある日を境にお互いが本心で向き合えるようになったため,その変化の要因について考察する.

事例紹介

A氏60歳代の女性.統合失調症,短大時代に失恋をきっかけに発症.以降,入退院を繰り返していた.今回徘徊している所を警察に保護され入院するが,病識なく薬への理解も得られず,被害妄想,誇大妄想,恋愛妄想があった.

看護の実際

妄想が強く,会話も何が本当で何が妄想なのかわからない状態だった.また多弁で話し続けるため,距離を考え離れたところから見守りながら接していた.ある日1枚の手紙を渡され「読んでほしい」と言われた.そこにはお金の請求とちょっとした言葉が添えられていた.「どう思う?この人私を助けてくれる?」と聞かれ,本心では「そうではない」と思っていたが言えずに「私にはわかりません」と言った言葉にムッとした表情で「なんでわからないの,今読んだでしょう」と強めの口調で言われた.指導者に伝え,どうすべきだったのか意見を聞き,プロセスレコードを使い自分の傾向を調べると,思っていることと口に出していることが違っていることに気づいた.ある日部屋に行くと下をむき「死にたい」「苦しい」と繰り返し悲観的な言葉が聞かれた.それについて驚いたこと,学生に伝えてくれて嬉しかったことを正直に伝えた.すると,その日を境に妄想はあるが前向きに物事を捉える言葉や,学生を気遣う言葉が聞かれるようになった.

考察

相手を不快にしてはいけないという思いから,考えている事とは違い,取り繕う返答をした.そこに患者は違和感を抱いていたと考えられる.宮本は「違和感はしっくりいかない時に味わう,予想外,期待はずれの言動によって触発される」2)と述べており,学生の言動が結果的に違和感を与えていた.だが悲観的な言葉が聞かれた際,正直に思いを伝えたことでA氏の中にあった違和感が消え,学生自身も自己一致ができ,そのため信頼関係が築けたのではないかと考える.トラベルビーは「病人の独自性を知覚し,それに応え,その真価を認める能力を持つことにより,信頼関係を築くことができる」3)としている.学生が受け持ち患者の独自性に気付き,それに応えることができたために信頼関係構築につながったと考える.

結論

学生は思いを正直に伝えられることで関わりが楽になった.同時にA氏の違和感が消えお互い安心して関われる存在になった.患者の信頼できる相手というのは正直に答えてくれる相手であったため,自己一致が良い結果となり信頼関係を構築できたと推測される.

参考文献・引用

  1. 1)宮本真巳:心の動きをどう測れば援助は成立するか−ケアリング・自己一致・違和感の対自化.日本精神保健看護学会誌,20(1);68-70,2011.
  2. 2)前掲1).
  3. 3)野嶋佐由美編:看護学の概念と理論,日本看護協会出版会,東京,71-76,2021.

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