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2023年度 課題研究発表会
ポスター演題

重症心身障害者との意思疎通のために合図を用いた関わり

キーワード:合図意思表出行動観察重症心身障害者
看護学科
真山 唯花

はじめに

言語的コミュニケーションが難しい重症心身障害者(以下重症者とする)のコミュニケーションは,援助者がその行動観察を丁寧に行うことが重 要である.今回,脳性麻痺の構音障害により発声できてもほとんど聞き取れない患者とのコミュニ ケーションに悩み「合図」を決め意思疎通が出来る様になった事例を体験したので報告する.

事例紹介

A 氏,70歳代男性,脳性麻痺により臥床状態の ため全介助が必要であり要介護5,知的障害,構音障害はあるが感情表現でき,日常生活を行う程 度の会話は可能.ラジオが好きで毎日聞いている.

看護の実際

A 氏が発語する言葉は看護師も聞き取り不可能 な場合が多く,最初はほとんど聞き取れなかった.しかし次第に,「はい」「寒い」「眩しい」「もういい」 の4単語は正確に聞き取れるようになった.さら に,日付や年齢などあらかじめ返答を予想しての 質問では,A 氏の発語に言葉を当てはめながら聞 き取ることが出来た.
また,看護師とA 氏の関りを観察すると,何を言っているのか分からないからと一方的にケアを行う看護師には笑顔を見せず,反対に,ケア中, A 氏への意思確認を行う看護師には笑顔を見せることが多いことに気付いた.
日々カーテンの開け具合やラジオの音量調節を行う際は,少し調節しては繰り返し何度もA 氏へ 確認し,反応がないこともあったが,日によって,口角を下げたまま小さな声で「はい」という日も あった.頻回の確認はお互い負担が大きいと感じ, A 氏の判断で「はい」と発言してもらうよう合図 を決めた.その結果,頻回の確認を行う必要がな くなり,A氏の求めている環境へとより早く整備 することが出来た.お互いの負担軽減にも繋がり, ベッドのギャッジアップも合図を使用し調節を行うなど,様々な場面で合図を用いてA 氏の意思表 出を促した.合図を用いた関りだけでなく,口の動きの観察や言葉を復唱して確認を行い,日々A 氏の発語する言葉を聞き取ろうという姿勢で関わりを続けていくうちに,A 氏の表情に笑顔が見ら れた.

考察

岡1 )らは重症者の意思表示する方法を5カテゴ リーに分け,看護師が理解し,ケアに活用している.今回のA 氏への関りもこれに沿って分類すると,「まとめ上げ段階コード」レベルで,患者の発語状態・看護師との関りを観察したことは「日々の行動観察からの解釈」したことになる.聞き取 れる言葉の発見は「直接的な関りからの読み取 り」に当てはまり,いずれも「関わりの積み重ね からの解釈」に該当した.自分から必要な時に合 図を出すように決めたことは「対象者の意思表出を引き出す工夫」をしたことになる.ケアの度に 意識して訪室し,口の動きや表情の観察したこと は,「意思を理解する努力する」や「意思を表出しやすい環境を整えた」ことにつながる.言葉を復唱して確認したことは,反応をフードバックし関わったことになり,「相互関係に基づいた探索」 になった.
これらを用いてコミュニケーションを継続した ことで,より学生との関係性が深まり,A 氏からの笑顔が見られたと考える.

結論

重症者のコミュニケーションでは意思を理解しようとする姿勢を持ち,行動観察を行い,合図を 決めて対象の意思表出を促すことが有効であっ た.

参考文献・引用

  1. 岡ら:重症心身障害児(者)の意思の確認方法に関する文献検討 . 川崎医療福祉学会誌 ,32( 2 );457—465,2003.
  2. 水上洋治:コミュニケーションの力に思うこと-子どもたちと生活する中で- , コミュニケー ション障害学.29(1);55-58,2012.

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