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2023年度 課題研究発表会
ポスター演題

難聴のある高齢者の自尊心に,変化を及ぼした1 事例

キーワード:コミュニケーション自尊心難聴
看護学科
矢部 萌衣

はじめに

耳の聞こえが悪くなり,十分な意思疎通が困難になることは,本人にとって大きなストレスになるとともに,結果として自尊心やQOL の低下を引き起こす一要因となることが宮北ら1)によって指摘されている.今回,老人性難聴により,自尊感情の低い療養者を受け持った.学生のかかわりで,療養者の言動に変化がみられたため,何が効果的であったのか事例を振り返り考察する.

事例紹介

A 氏90歳代前半男性.老人性難聴あり.要介護2.車いす移動.生活上の介護,歩行リハビリ テーション目的で療養中.認知機能は保たれており,排せつは尿便意を訴えトイレを使用し部分介助.日中デイルームでは数独,新聞を読んで1人で過ごしている.周囲の音や人の声について聞こ えにくいと発言.

看護の実際

受け持ち初日のA 氏への挨拶で,難聴があるた め耳元で低め,かつ大きめな声でゆっくりとかか わった.しかしそれでもA 氏には伝わらず「ごめんな.耳が悪いだ.」と返された.それからもA 氏に伝わる話し方を十分把握できず,疎通が取れないこともあり,A 氏はそのたび「耳が悪くてい けんだ.」「わしは外れだ.」「こんなんの担当になっ てよかったんか.」と自尊感情の低い言葉を多く口にした.また,デイルームで健康体操があって も興味も示さなかった.A 氏には学生の時間が許す限りかかわりを持った.伝えたいことが理解で きているのか,声掛けに対する表情や発言,反応 を1つ1つ確認しながらコミュニケーションをとっ た.受け持ち3日目にはA 氏から聞き返されることは無くなり,同時に自尊感情の低い発言も無くなった.さらに6日目からはデイルームでの体操 に,自ら車いすで参加していた.

考察

難聴はコミュニケーションの障害となり,意思の疎通を妨げる.人は他者とのかかわりの中で, 自分の存在を築いていく.ところが難聴により人 のことが理解できない,あるいは人に自分のこと を理解してもらえない状況では,疎外感・孤立感に陥り,さらには自尊感情の低下を招いてしまう. A 氏には疎通がとれるように,非言語的コミュニ ケーションも用い,かかわりを持ったことで,A 氏にとっては学生が理解者として認識されたと考えられる.A 氏もまた聴覚の代償を得るため,五感を使い学生を理解しようとしたことで,学生にとっての理解者という存在になっていた.A 氏は 学生が受け持つことで,療養生活に変化をきたし,さらに理解される存在となっていた.またその結 果として,A 氏は自分の存在を認識し,疎外感・ 孤立感を軽減させることができたため,自尊感情 の低い言葉がなくなったのではないかと考えた.孤立感や疎外感はあったとしても,自ら自分のた めに体操に参加したことは,自分自身の存在を認 め目的を持つことができたためであると考えた.

結論

難聴であるA 氏と,お互いに五感を使い,非言語的コミュニケーションを用いて理解しようとか かわることで,両者が理解者となり,A 氏は自分の存在を認識することで孤立感や疎外感を軽減させ,自尊心を保つ結果となった.

参考文献・引用

  1. 宮北隆志ら:地域中高年者における聴力障害の自己評価とQOLの構成要素との関連. 日本農村医学会雑誌,50(1);29-39,2001.

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