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2023年度 課題研究発表会
ポスター演題

せん妄により自己抜去を繰り返す患者の看護~概日リズムを整え安心感をもたらす援助~

キーワード:せん妄自己抜去
看護学科
中嶌 宙

はじめに

高齢患者は長期臥床により運動機能・心肺機能・ 知的機能の低下を起こし,せん妄を発症することがある.また人的・物理的環境の変化や不安・ス トレスなどはせん妄の誘発因子となることが明ら かにされている.そのため,せん妄の予防・改善 のためには精神の安寧を保ち日常生活を整える援 助が大切である.今回,せん妄症状が出現し経鼻経管栄養チューブ(以下チューブ)の自己抜去を繰り返す高齢患者を受け持ち援助を行った結果,せん妄が消失し自己抜去がみられなくなった.そこで,事例をふり返りせん妄症状のある患者の看 護について考察する.

事例紹介

A 氏70歳代男性,誤嚥性肺炎のため入院中. 日常生活はほぼ全面介助.自分から話をすることはない.経鼻経管栄養中であるが,せん妄が起 こりチューブの自己抜去を繰り返していた.既往歴に認知症,ステロイド精神病がある.

看護の実際

A 氏は,夜間眠っておらず日中眠っていることが多く,「天井に幽霊がいる」と発言があり失見当識もあった.そこで,テレビを見やすい位置に換え,カーテンを開けて日光を浴びられるよう環 境を整えた.そして,日時を確認し季節の話題を盛り込みながらコミュニケーションを取る時間を増やした.また,口腔体操を取り入れ日中の覚醒 を促していった.その結果,日中の活動量が増え夜間の覚醒頻度が減少していった.チューブを自 己抜去した際は,本人の訴えを否定せず傾聴し,チューブ留置の必要性についてわかりやすい言葉 で説明した.徐々にA 氏は笑顔がみられ自分から 私生活について話をするようになった.チューブ交換を拒否することもなかった.その後せん妄症 状は消失しチューブの自己抜去はみられなくなっ た.

考察

栗生田は,せん妄発症時のケアとして「せん妄 発症を導く日常生活因子に対処し,日常生活を整 える」1)と述べており,有用なケアに睡眠コント ロールや感覚刺激による見当識情報の維持を挙げている.環境を整え,口腔体操などを取り入れたことは,A 氏にとって日中の活動量を増加させる 適度な刺激になり概日リズムが整えることに効果 的であったと考える.また,毎日,日時が感じら れるよう関わったことで見当識の回復に繋がったのではないかと推測する.
長谷川らは,せん妄ケアの基盤として「患者に 安心感をもたらす関係を築く」2)を挙げている.言動を受け止めるとともに,状況が理解できるよう伝えたことはA 氏の気持ちを和らげ安心感に繋 がったと考える.学生との関係性が変化したことでA 氏の人的環境のストレスを軽減させたと考え る.
これらの相乗効果によりせん妄状態を改善させチューブの自己抜去がなくなったと推測される.

結論

日中の活動量を増やし概日リズムを整え日時が 感じられるよう関わることや,患者の言動を受け止め安心感をもたらしたことで, A氏のせん妄状 態を改善させることに繋がった.

参考文献・引用

  1. 栗生田友子:高齢者せん妄のケア.日本老年医学会雑誌,51(5);436-444,2014.
  2. 長谷川真澄ら:せん妄リスクのある患者への看 護実践の知.老年看護学,26(1);69-78,2021.
  3. 菅原志保:ICDSC の各項目とチューブ類自己 抜去患者との関係.第49回日本看護学会論文集 急性期看護,19-22,2019.
  4. 4)田原恭子:一般病棟における『せん妄ケア』の概念分析から得られた看護師の課題.日農 医誌,65(6);1148-1156,2017.
  5. 脇田浩ら:ICUで術後せん妄を発症した患者への看護介入に関する事例検討.三重県立看護大学紀要,23;1-9,2019.

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