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2023年度 課題研究発表会
口述演題

オプティカルフローを増強させた視覚刺激が高齢者の歩行速度に及ぼす影響

キーワード:オプティカルフロー歩行速度視覚刺激高齢者
理学療法士学科
河本 和樹/佐田 琴音/幸田 瑠那/上福 陸斗/杉本 鈴夏/菖野 みちる

はじめに

高齢者の転倒の要因の1つとして, 歩行速度が低下 していることが挙げられる. また, 歩行速度の低下は 日常生活動作の低下と密接に関わっている. 歩行を行 う際, 様々な感覚情報に基づいて自己感覚が生成され, 中でも視野周辺領域に対するオプティカルフロー(OF) は, 自己感覚に対して大きな影響を及ぼしている.OF を増強させた環境での歩行では, 歩行速度を上昇させ ることができることが明らかになっている1). 我々は 高齢者に対しOF を増強させた視覚刺激下で歩行を行 い歩行速度に及ぼす影響を解明することとした.

対象および方法

対象者は, 鳥取市社会福祉協議会主催のフレイル 予防教室の参加者15名( 男女比1:14) とした. 方法とし て, 対象者をランダムにA 群とB 群の2群に分類した. OF 増強なし(c), OF 増強あり( i ) とし,A 群:① i , ② c, ③ i B 群:① c, ② i, ③ c の順で10m 歩行を実施し た. 体育館の床に20m×2mの黒シートを敷き, ストッ プウォッチで歩行速度を計測した. 視界下方のOF と して縞状に赤テープ( 太さ7㎝ ) を50㎝間隔に貼り, 視 界上方にも下の赤縞シートを反射させるようヘルメッ トの先端に鏡を装着した. 歩行距離は加速距離2m , 測 定距離10m, 減速距離2mと区間を設け, 最大歩行速度 で歩行をA 群B 群ともに①~③を各3回行った. デー タ解析は, 反復測定分散分析でA 群とB 群を比較す る分割プロット分散分析を使用した.

結果

分散分析でA 群とB 群を比較した結果, 歩行速度 の変化に有意な差はみられなかった(P ≧0.05). またA 群B 群ともに,c からi で歩行速度の有意な差がみら れた(P <0.05). 多重比較の結果, 歩行速度において,A 群では①<③ (P <0.05), ②<③ (P <0.05), ① = ② (P >0.05) となり有意差がみられた.B群では①<② (P <0.05) ①<③ (P <0.05) ② = ③ (P>0.05) となり有意 差がみられた.

考察

OF 増強によって高齢者の歩行速度が上昇したこと が示唆された. A 群,B 群ともにc からi で全対象者の 歩行速度上昇が得られた. またi からc では歩行速度 に有意差はみられなかった. 視覚パターンのうち, 特 に視野周辺領域に対するOF が自己運動感覚の中でも 速度感覚に対して大きな影響を及ぼしている. また, 歩行の速度調整に関しては主に前頭連合野や運動前野 の関与が報告されており, それらの感覚情報は一時的 に小脳で貯蔵され, 動きの協調性などを制御している とされる2). これらより,OF を増強させた環境下で歩 行を行うことで体感速度が速くなるに伴い歩行速度が 上昇したと考えた. またOF 増強下で歩行することで, その感覚情報が脳内に学習として一時的に貯蔵され, 歩行速度の維持がみられたと考えた. 今後の課題とし て, 長期的に介入することで歩行速度上昇の効果持続 が得られるのかなどについても検証する必要がある.

参考文献・引用

  1. Casimir J.H. Ludwig,Nicholas   Alexander:The inf luence of visual f low and perceptual load on locomotion speed.Atten percept psychophys ;Vol.80.69-81, 2018
  2. 山下真由ら:ocuduss: オプティカルフロー制御に よる速度提示デバイス,情報処理学会インタラク ション;745-748, 2017.

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