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2022年度 課題研究発表会
ポスター演題

オプティカルフローが歩行速度に変化をもたらす要因

キーワード:10m歩行歩行速度生体力学視覚刺激
理学療法士学科
徳中 晃大/西谷 美音/長水 穂華/石賀 小次郎/小谷 健太/曽我部 桃菜

はじめに

近年,歩行能力がADLに与える影響に関する研究が進み,歩行速度とADL自立度との関係性に注目が集まっている.歩行を行う際には,視覚・聴覚・体性感覚などから情報を収集し,歩行行動を決定している.人の体感速度は主に自己の視覚情報が重要といわれている.前方の一点を見て歩行を行う際に,視野中心から放射状に広がっていく動きのパターンが網膜像に映し出される.このような動きのパターンはオプティカルフロー(OF)と呼ばれ,歩行時にOFを提示すると,歩行速度が上昇する.そこで本研究では,OFの提示によって歩行速度に変化をもたらした要因を生体力学的に明らかにすることで,歩行とOFの関係性解明の一助となることを目的とした.

対象と方法

対象は,健常若年者20名(男女各10名年齢:20±2身長:167.15±12cm)とした.方法として,縞模様(50cm×7cm)シート(16×2m)を使用する介入(以下:B)と,模様の無いシートを使用するコントロール(以下:A)の2条件とした.各条件のシート上を最大速度歩行で歩行するように伝え,それぞれ3回実施した.対象者は歩行時に鏡を固定したヘッドセットを装着した.誤差を減らすため計測方法をAからBの順で行うI群とBからAで行うII群にランダムに分類した.ウルティウムモーション(NORAXON)を使用し,股関節屈曲角度,体幹の前傾角度,足圧重心軌跡,母趾・踵部への荷重量を評価した.筋活動量は表面筋電計を大腿直筋に取り付け評価した.

データ解析は,1回目実施分を削除し使用した.統計処理として,AとBの比較を対応のあるt検定で行い,歩行速度を上昇させる要因の分析を,ロジスティック回帰分析で行った.

結果

対応のあるt検定の結果,歩行速度で有意な差がみられた(p=0.01).その他では統計学的な有意差があるとは言えなかった(p>0.05).ロジスティク回帰分析の結果,歩行速度上昇と有意な変数として選択された項目はみられなかった(p>0.1).

考察

本研究では,OFと歩行速度変化に関わる要因を解明することはできなかった.

歩行時,骨盤が後傾し,歩幅が増すことで歩行速度が上昇することを予測したが,Casimirら1)の先行研究と同様に歩幅への影響が認められなかった.歩行速度が上昇した際,初期接地時に大腿直筋筋活動量が増大すると予測したが,AとBで筋活動量の変化に左右差がみられものの,統計的な有意差はみられなかった.これは介入により歩行速度が上昇したことで,機能の違いによる筋活動の差が顕著に表れたと考えられる.今後は,左右差についても検討していく必要がある.

今回,AよりBで歩行速度が低下した被験者4/5名が身長170cm以上であった.Matthieuら2)は,視線が高いほど床からのOFが減弱すると述べている.本研究では,視線の位置を指定していなかったため,OFに個人差が生じた可能性がある.

また,OFの提示最終地点に近づくにつれ,歩行速度が減少する1)といわれており,本研究でも同様に歩行速度の低下が生じていたと考えられる.そのため,今後は縞模様の提示範囲の延長,歩行計測距離の短縮を行い再度検証する必要性がある.

参考文献・引用

  1. 1)Casimir J.H. et al. : The influence of visual flow and perceptual load on locomotion speed. Atten Percept Psychophys, 80(1); 69-81, 2018.
  2. 2)Matthieu et al. : Visual control of walking velocity. Neurosci Res, 70(2); 214-219, 2011.

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