看護学生の臨地実習中のストレス状態に関する実態調査
はじめに
臨床実習中の看護学生の感情状態を理解することは,提供するケアの質,実習に対する意欲に影響を与える要素を明らかにする上で重要である.昨年度の濱
中らの調査では,実習前のA 看護専門学校生は脅威的感情が強く,肯定的感情が少ない傾向があった. そこで今回は同質問紙を用い実習中の感情状態の変化とさらにそのストレス要因と対策について調査を実施した.本研究により, 看護学生の臨地実習中のストレス状態の実際を把握し考察することで, 学生自身がストレスや不安を適切に管理し,実習中の心理的な健康を保つ方法を知ることを目的とした.
対象および方法
A 看護専門学校3 年生の78 名のうち匿名のアンケート実施に同意を得られた者に対し, 初回実習期間中の後半から終了日までに, 鹿児島大学版臨床実習用ストレス質問紙(鹿大版CSQ ("Coping Strategies Questionnaire"))で評価する.鹿大版CSQ は, 否定感情と肯定的感情を測定する尺度であり「脅威的感情」を問う6 項目と,「挑戦的感情」を問う6 項目,「有害の感情」を問う5 項目の計17 項目から成っている1).また今回考えられるストレス要因を学生の意見をもとに24 項目のアンケート用紙を作成し, 該当する項目を複数回答で記入してもらった.さらにその対処法を自由記載してもらい集計した.
結果
研究に協力が得られたのは3 年生の40 名(回答率51%)であった.「脅威的感情」「挑戦的感情」「有害の感情」の最も強い感情を示す尺度である「全くそうだ」を選択した項目は「脅威的感情」である「不安だ」が最も多く38%であった. ついで「心配だ」が35% ,最も少なかった項目は「脅威的感情」の「圧倒されている」と「有害の感情」の「むなしい」の0%であった.「全くそうだ」を選択した6 項目の平均比率は「脅威的感情」で27%,「挑戦的感情」で7%,「有害の感情」で5% であった. 濱中らの実習前の調査と比較すると「脅威的感情」は6%減少,「挑戦的感情」は3%増加,「有害の感情」は2% 減少した. このことから, 実習中には,実習前の否定的感情が減少したが, 依然不安や心配を持ったまま実習していた. 一方で「希望を持っている」「意欲がある」などの挑戦的感情が生まれ, 肯定的感情が実習前よりやや増加していた.
また, 実習中のストレス要因として半数以上の人が選択した項目は睡眠時間の減少83% , 記録課題の量78% , 精神的疲労73%であり, 記録の手書き,身体の疲労, 看護師に気を遣ってしまう, 生活リズムの乱れが挙げられた. それに対するストレス対処法として,食べる, 寝る, 音楽鑑賞の回答が多かった.
考察
門間らは医療の緊張感, 実習による食生活の変化や睡眠時間の減少が実習のストレスを増強する2)としている. 昨年度に続き,実習中にも脅威的感情が高い
理由として,半数以上が記録・課題が多く,手書きであることで睡眠不足となり,生活リズムの乱れが生じ身体的・精神的疲労につながっていると考えられる. また, 実習での看護師との関わりも緊張を伴っている.これに対して学生自身は, 意識的に食事,睡眠などの生理的欲求を満たすことで精神面の安定を図ろうとする対処法を取っている. 実習環境としても, 記録・課題の改善や実習場の相談しやすい雰囲気づくりが望まれている. 挑戦的感情が向上したのは指導者や教員からの肯定的な声かけ, 実習メンバーとの支え合い, 患者からの労いの言葉が自信や安心に繋がったためである. 今後は, 調査紙のストレス要因項目をより客観的で妥当性のあるものにし,実習中のアンケート実施時期を実習前半や終了後することで, さらに学生の精神的な実習環境の改善につながることが考えられる.
結論
A 看護専門学校生の臨地実習中は実習前に比べ「否定的感情」が低下するものの, 睡眠時間の減少, 記録課題の量の多さ, 精神的・身体的疲労等からくる不安
や心配は同様に高かった.また「肯定的感情」がやや増加する傾向があった. 対策として相談しやすい環境作り, 記録方法の変更などにより睡眠時間の確保が出来ることで生理的欲求が満たされ, 臨床実習中のストレス軽減につながることが示唆された.
参考文献・引用
- 堤由美子:臨床実習用ストレス質問紙(CSQ)の日本語版の開発.日本看護研究学会雑誌Vol.17,No4.1994
- 門間真子ら:長期の臨地実習における看護学生の感情状態の変化- 学部3 年生の感情プロフィール調査(POMS)から- 日本看護研究学会雑誌 Vol.24,No.3 2001
- 堤由美子:臨地実習におけるストレス感情の経時的変化の検討‐ 鹿大版CSQ による日本看護研究学会雑誌17(4),27-38,1994saisyuu