脊柱起立筋への電気刺激が重心動揺に及ぼす影響
はじめに
体幹は動作の要であり, 体幹筋力が低下すれば,起き上がれなくなり, 体幹に異常運動を呈すれば, 座位などの姿勢保持が著しく困難になる1). 転倒予防のためには、リハビリテーションにおけるバランス能力の向上が重要である. バランス練習を効果的に行うためには, 体幹を安定させるための一定の筋力, 特に脊柱起立筋の働きが必要となる. しかし, 体幹筋力が十分でない場合, 姿勢保持やバランス練習そのものが困難となり, 十分な訓練効果が得られにくい. そこで, リハビリ前の待ち時間などの時間を活用し, 神経筋電気刺激(Neuromuscular Electrical Stimulation:NMES)を用いて脊柱起立筋を刺激することで, 体幹筋の活動性を高め, バランス練習の効果をより引き出せる可能性があると考えた. 本研究では,NMES の即時的な効果が重心動揺および体幹安定性に及ぼす影響を検証することを目的とする.
対象者及び方法
対象:NMES の禁忌に該当しない健常成人男性9名/ 女性10名の計19名. 平均年齢21.5歳
方法:被験者には重心動揺計(GS31-P:ANIMA社製)の上で, 開眼, 閉眼にて30秒間静止立位. 開眼時の測定では, フォースプレートの上の対象者の踵の位置より2m 前方の正中位で対象者の目の高さに合わせた固視点を設置. またフォースプレート上のマーキング位置に合わせて足先を各15°外側の閉脚立位とする. 重心動揺計のサンプリング周期は20Hz, サンプリング時間は30秒間とする. 被験者には電気刺激後も上記と同様に重心動揺を計測. 電気刺激は, ベッド上に腹臥位で電極パッドを脊柱起立筋の筋繊維に沿って貼り実施.NMES の周波数は50~100Hz に設定. パルス時間200~500μ s とし,5~10秒オン10~50秒オフで設定し20分間行う.
結果
開眼条件における総軌跡長は, 電気刺激前214.7±51.0mm, 刺激後210.8±42.1mmで, 有意差は見られなかった(p=0.74). 閉眼条件における総軌跡長が刺激前258.8±54.1mm から刺激後215.0±83.3mm(p<0.01,r=0.59),X 方向軌跡長は刺激前117.8±28.0mm から刺激後97.2±43.5mm(p<0.01,r=0.69),Y方向軌跡長は刺激前205.1±49.6mm から刺激後171.6±64.5mm(p<0.05,r=0.55) へと, いずれも有意差が見られた.
考察
今回, 開眼条件では総軌跡長,X 方向軌跡長,Y方向軌跡長いずれも有意差は見られなかったが,閉眼条件では全ての項目で有意差が見られた. この違いは, 視覚入力の有無が関与していると考えられる. 開眼時には視覚情報により姿勢制御は保証されるため, 電気刺激による体性感覚入力の増加が顕著な効果として現れにくかった可能性がある. 対照的に, 閉眼時には視覚情報が遮断されるため, 体性感覚や前庭感覚への依存度が高まる. 特にX,Y 方向の軌跡長ともに有意に短縮したことは前後, 左右方向の動揺制御にも寄与したことを示唆する. これは, 電気刺激が単に局所的な効果に留まらず, 全般的な姿勢安定性に影響を与えた可能性を支持する. 以上のことからNMES は即時的な効果があり, リハビリテーション前に行うことで体幹の安定化が期待され, 運動療法を効率よく行うことが示唆される. 今後の研究では, 電気刺激の強度や刺激部位の違いによる影響などを検討し, より詳細な作用機序を明確する必要がある.
参考文献・引用
- 桑原渉ら:安静立位時の体幹筋活動と体幹筋力の関連. In 理学療法Supplement.Vol. 37 Suppl. No. 2 ( 第45回日本理学療法学術大会抄録集) ,ppH4P3259-H4P3259 ,2010.
- 緒方徹:骨格筋への電気刺激法(神経筋電気刺激法:NMES) の筋力増強果,54:7647672017.





