呼び出し音が作業量および作業能力に及ぼす影響
はじめに
病棟では電話音、ナースコール、モニターアラームなどの呼び出し音が常に鳴り響く中、看護師は複数の業務を同時に行っており,このような音環境は集中力の低下を招く1)とされている. しかし、看護分野での呼び出し音が実際の作業量や作業能力へどのように影響するかを検討した研究は少ない. そこで本研究では、看護学生を対象に、呼び出し音の有無や鳴る頻度が作業遂行に及ぼす影響を、内田クレペリン検査を用いて評価した. これによりどのような音環境であれば,看護師が集中力を維持できるかを明らかにすることを目的に研究を行った.
対象および方法
A 看護専門学校の3年生20名を対象に,研究の目的を説明し同意を得たうえで、音環境を変え,1桁の数字を1分ごとに15行(計15分間)足し続ける内田クレペリン検査を用いて作業量(処理数)と誤答数を指標に,作業能力を評価した.音の種類は、モニターアラームに近いベル音とし,ナースコールのメロディ音に近いメヌエットとして使用して, 約70dB の電子音2)を使用した.音環境は,静音(呼び出し音なし)、低頻度(5分ごとに1回、計3回)、高頻度(2分ごとに1回、計7回)、メロディ音(メヌエットを5分ごとに1回、計3回)の4条件をこの順序で,全員が2日間で同じ机と椅子を用いて,休憩をとりながら行った.
結果
| 回数 | 音環境 | 20人の作業量(%) | 20人の誤答数(%) |
| 1 | 静音 | 61.7 | 2.5 |
| 2 | 低頻度 | 72.4 | 2.7 |
| 3 | 高頻度 | 72.0 | 1.9 |
| 4 | メロディ音 | 75.4 | 2.3 |
作業回数1回目より4回目の方が作業量が13.7%増加した.誤答数は静音よりベル音の低頻度で0.2%増加したが,高頻度では0.8%,メロディ音では0.4%減少した.また静音よりベル音では増加し、高頻度でいったん減少するがメロディ音で再び増加するものの、静音より0.2%低かった.
考察
今回,作業を1回より4回繰り返すことで作業量が増加した結果は、同一作業を反復することにより慣れて作業量は増え、慣れるとミスは減少するとする矢野らの結果3)と一致した。しかし,誤答数は静音、ベル音、メロディ音のすべてにあり、音の種類が変わる度に増加した. 渡辺は「意味のある騒音」は「意味のない騒音」より作業への阻害効果が大きいとしており4),看護師にとって呼び出し音は,患者の訴えや異常を知らせる重要なサインであり,意味のある音となり,作業中も常に意識することが求められる. 看護業務は限られた時間で多くの情報を処理し、正確な判断が求められるため、看護師の集中力や注意力を把握することは重要であり,これが医療事故を予防することにもつながる. 音の種類の変化でミスが増えることから,注意が必要であることがわかった. 一方で,低頻度より高頻度のベル音でミスが減少したことは,慣れて集中力や注意力が再度増加したのかもしれない。今後、さらに対象を増やし,慣れてもミスが増えない音環境を研究する必要性が示唆された.
結論
作業量は音環境に慣れることで維持される一方、誤答率は静音、雑音の種類が変わるごとに増加する傾向がみられた. これは、医療事故にも関係するため、慣れてもミスしない音環境の必要性が示唆された.
参考文献・引用
- 島貫陽平ら:「音の種類の違いは集中力に影響するか」 北海道心理学研究所,40(0):24,2018
- 小俣直美ら:「オープンカウンターにおける音の実態調査」東京医科大学看護研究集録,22;127-131,2002
- 矢野円郁ら.「複数回の反復プライミングにおける刺激固有性と加齢の効果」. 中央大学心理学研究科心理学紀要12(2);4-7, 2013
- 渡辺紀子:「騒音が知的作業に及ぼす影響」.鹿児島大学教育学部研究紀要 自然科学編第 51巻,2000





