対面授業と遠隔授業における理解度と満足度の比較調査
はじめに
2020年に日本で初めて新型コロナウイルス感染症患者が認められて以降, 新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)はパンデミックとなった. 我々が所属する作業療法士養成校においては,COVID-19の影響により, 休講を余儀なくされた. しかし, 情報通信技術(Information communication technology: 以下,ICT)等の発展により, 授業の形態を対面から遠隔へ変化させることで授業を受講することができた. 作業療法においてもICT を活用した遠隔作業療法が広がりを見せている.
塩津ら1)は, 読み書きが苦手な子どもに対するCognitive Orientation to daily Occupational Performanceを基盤とした遠隔作業療法において「実践形態が遠隔であっても, 読み書きが苦手な子どもたち, および保護者からポジティブな反応が確認できた. この実践を報告することによって,COVID-19の第二波やその他の理由で対面での作業療法が困難になった際の一助となることを期待している」と述べている.
本研究では, 対面授業と遠隔授業における理解度と満足度の比較を目的とする. 遠隔授業における理解度と満足度の比較調査を実践して報告することで, 我々が作業療法士となり, 遠隔作業療法を実践する際の一助となることが期待される.
対象・方法
対象;OSCE 課題(客観的臨床能力試験)を未受講学生34名. 方法;対象34名を,A 群(対面授業受講群)とB 群(遠隔授業受講群)に分類.OSCE 課題の一つであるBrunnstrom stage(運動麻痺の重症度を測る検査)上肢の検査方法をA 群,B 群に教示する. 教示後,A 群,B 群に実技試験とアンケート紙調査を実施.採点結果とアンケート紙調査結果を集計し,Man-Whitney U 検定にて2群を比較し,spearman の順位相関係数で相関を評価した.
結果
実技試験の平均点は,A 群が3点高かった.A 郡,B群比較では検査満足度(A 群;80.6±1.98,B 群;5.43±2.79)と授業満足度(A 群;8.88±1.11,B 群;6.21±1.74)においてA 群で有意差(p<0.01)を認めた.B 群では検査満足度と授業満足度に相関を認めた(r=0.68,p<0.01). アンケート紙調査においてA群で「実際に目視した方が理解できる」「質問しやすい」「分からないところの確認ができた」「集中して受講することができた」等の視角や双方向性のコミュニケーションに関する意見が多数挙げられた.B群では「気軽に受講しやすい」「圧迫感がない」等の環境に関する意見が多数であったが,「理解するのが難しい」「質問しにくい」等の視角や一方向性のコミュニケーションの課題に関する意見が多数挙がった.
考察
対面授業と遠隔授業の理解度と満足度の比較では, 対面授業において理解度と満足度に有意な差を認めた. 服部ら2)は「実技教育は対面授業に依存せざるを得ないと考えられた」と報告している. また,三苫ら3)の調査では「65%の学生が動画時間の1.5倍以上の時間をかけて視聴しており, 学生が動画の停止や繰り返しの視聴をした可能性」を報告している.
遠隔授業では, ストレスが少なく受講できる等の利点を認めるが, 視角やコミュニケーションに関する課題を認めた. 有効な遠隔作業療法の実践のためには, 一方向性になりやすいコミュニケーションの検討と画像の視角について検討が必要であると示唆される.
参考文献・引用
- 塩津裕康・奥津光佳・倉澤茂樹; 読み書きが苦手な子どもに対するCognitive Orientation to daily Occupational Performance を基盤として遠隔作業療法, 作業療法の実践と科学6(2);26-37,2024.
- 服部 辰広・松田 康宏ほか; 対面授業と比較した遠隔授業の学習効果に関する研究, 保健医療学部整復医療学科学生に対するアンケート調査(2022)
- 三苫 博・原田芳巳・山崎由花ほか; 対面授業は, オンデマンド型授業より優れているのか?医学教育,51(3):266-267,2020.