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2024年度 課題研究発表会
ポスター演題

好みの嗅覚刺激が作業効率に影響を与えるか

キーワード:作業効率嗅覚刺激心理的効果書字
作業療法士学科
荒木 陸翔/今川 澪/小原 圭嵩/谷口 晴人/平尾 美紀/矢木 結子/矢吹 元

はじめに

特定の嗅覚刺激の影響を調べた文献は多く存在するが,被験者が好みの嗅覚刺激を選択し,各被験者がそれぞれ選択した刺激に晒された環境下での作業効率への影響を調べた研究は少ない.そこで,被験者に個々の好みの香りを選択させて,その快刺激の有無によって作業効率などに何らかの影響があるのかを検証しようと考えた.

 

方法

本校在校生の内,研究への同意を得られた29名(男20名・女9名,平均年齢19.8±0.7歳)にて,前後テスト統制デザインのランダム化比較試験を行った.介入群(以下,A 群)14名と対照群(以下,B 群)15名にランダム振り分けし,A 群には事前に「Aroma Environment Association of Japan の2014年調査で男女共に好きな香りランキングの上位6種となった香り」を実際に嗅いでもらって好みの香りを選択させた.作業効率を計る課題は,B4用紙記載の般若心経(262文字)を被験者が普段使い慣れたボールペンを使用して,同じB4用紙に5分間書き写す写経課題とし,作業速度と正確性の指標として記入文字数と誤字数を測定した.作業1としてA・B 群ともに香りなし環境下で課題遂行させ,3分間の休憩後に,作業2としてA 群には香りあり環境下で,B 群には香りなし環境下で課題遂行させた.A 群への香り導入は,香り6種ごとのアロマスプレーを被験者の作業台上で作業開始直前に6プッシュ,作業時間1/2の時間で2プッシュ空中散布した.アロマスプレーは,アトマイザーに無水エタノール1ml,アロマ精油2滴,精製水4ml を順に加えて混合させて作成した.課題実施に当たっては,香り以外の環境が同一条件となるよう調整した.
課題前後に,自己記入式のアンケートにて心理的状態(気分,ストレス,眠気,疲労,リラックス)を5件法で回答させ,生理的指標として心拍数と血圧を測定した.その他,A・B 群ともに作業1前にはアロマセラピーへの興味や香りへの敏感さについて回答させ,A 群には作業2後に作業中の香りの印象や作業効率などへの影響について回答させた.
解析にはフリー統計ソフトEZR Ver.1.68を使用し,記入文字数と誤字数を対応のあるT 検定で,作業1-2間の生理的指標の差を対応のないT 検定で,心理的状態をWilcoxon 符号付順位和検定でそれぞれA-B 群比較した.また,A 群分析として,アロマセラピーへの興味や香りへの敏感さと作業2遂行中の香りの印象や作業効率などへの影響,作業1-2間の記入文字数変化についてKruskal-Wallis 検定で関連性を確認した.

 

結果

A-B 群比較では,作業2の記入文字数と誤字数に有意差(P<0.05),作業2前後でのストレスに有意差(P<0.05)を認めたが,その他の項目では有意差が認められなかった.A 群分析では,関連性のある項目が認められなかった.

 

考察

田中ら1)によれば,好きな香りは脳幹網様体を興奮させ,その結果脳の覚醒度が高まって課題に対する反応を高めるだけでなく,課題によって引き起こされる負の感情を緩和し,作業効率を上げる効果があるとしている.今回のA-B 群比較結果では,その先行研究結果と同様の結果となった.
A 群分析からは,アロマセラピーへの興味や香りへの敏感さと課題遂行中に香りによって受ける影響には関連がないことが分かり,好みの香りによる効果は誰にでも期待できる効果であることが示唆された.

参考文献・引用

  1. 1)田中昭子:香りによってもたらされる快適感の生理心理作用. 生活工学研究,第2 号, 第1号(2000).

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