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2024年度 課題研究発表会
ポスター演題

運動前の微弱電流刺激がヒトの筋疲労に与える影響

キーワード:微弱電流刺激(MENS)神経発火効率筋疲労
理学療法士学科
寺岡 健/石川 ゆきの/伊藤 景太/前田 寛太/山田 遼河/和多田 真大

はじめに

筋疲労は,筋力低下やパフォーマンス低下を引き起こしリハビリテーションやスポーツ活動の障害となる1).これを防ぎ, 運動効率を高める手段の一つとして微弱電流刺激(MENS)が注目されている.MENS は,血流促進や代謝活性を高めるとされ,筋疲労耐性やパフォーマンス向上が期待されている.しかし,運動前のMENS が筋疲労へ与える影響については,未だ明確ではない.本研究では,運動前のMENS が筋疲労に与える影響を検証することを目的とする.

 

対象及び方法

<対象>膝関節に異常の見られない健常男性19名/ 女性1名,計20名,平均年齢22.15歳
<方法>利き脚の膝関節伸展筋(外側広筋)を対象とし,MENS(Alter mini),筋電図(PowerLab 26T),BIODEX を用いて行った.運動課題前に30分間安静期間を設け,その後BIODEX を用いて膝関節伸展運動(135°~180°)を最初に5回練習後1分間の休憩を挟み20回の本番運動を実施.被験者を無作為に10人ずつMENS 未実施群(A 群)とMENS 実施群(B 群)と分ける.実験は2日に分けて行い,初日(X)は両群共に同じ運動課題を,2日目(X+7日)はB 群にのみ運動前の安静期間中MENS を実施(装着部位は大腿周径最大膨隆から近位4cm,遠位8cm).両日の筋電図を比較し筋疲労耐性を検証した.

 

結果

A 群とB 群の筋電図から周波数・積分値の評価を分割プロット分散分析を用いて検証したところ,周波数は2群間で優位差(P <0.05)が認められた.ただし,積分値や反復測定では優位差は認められなかった.群間で比較した場合,周波数A ではB 群の方が低値で推移しておりP=0.008で優位差が認められた. しかし,周波数B ではP=0.5723, 積分値C ではP=0.4583, 積分値DではP=0.2280と優位差が認められなかった.また,反復測定で比較した場合,周波数A ではP=0.7365,周波数B ではP=0.9354,積分値C ではP=0.2951,積分値D ではP=0.8112と優位差が認められなかった.

 

考察

今回の実験では,反復測定で優位差は見られなかった.本来であれば,反復測定で有意差をつけることによって,MENS が筋疲労耐性に対して効果があるかどうかを検証する予定であった.だが,設定した運動課題が筋疲労を十分に引き起こすには強度が不足しており,筋疲労耐性効果の確認には至らなかった.しかし,MENS が筋肉内の血流の促進や酸素供給の向上,ATP 産生の活性化に寄与することで,筋肉の代謝活動が効率化し短時間でのパフォーマンス維持に加え,神経発火の効率化の向上にも影響を与える可能性が示唆された.通常高頻度の神経発火(神経高バースト)は強い収縮力を得るために必要だが,その頻度が高まると筋疲労が蓄積しやすくなる.MENS が神経細胞膜電位に作用することで,神経伝達の活性化を促進し発火閾値が低下する.これにより,神経間のシグナル伝達がスムーズになり,必要な発火が効率的に行われる.結果,神経高バーストの減少が起こり筋疲労耐性効果が期待される.以上のことから運動前のMENS はリハビリテーションやスポーツ現場共に筋収縮のエネルギー効率が改善されることで,無理なく筋活動を行うための補助として役立ち,効果的な運動の維持に寄与することが期待される.今後の研究では,MENS が神経発火効率と筋疲労耐性に及ぼす影響をより明確に評価するため,運動課題の強度や持続時間などを調整し,疲労状態での条件下でMENS の効果を検証する必要がある.

参考文献・引用

  1. Gandevia, S. C.:Spinal and supraspinal factors in human muscle fatigue. Physiological Reviews, 81(4), 1725–1789,2001.

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