運動習慣・生活習慣の違いが身体組成および 呼吸機能に与える影響
はじめに
近年,若者の身体活動量低下や運動不足が問題視されており,将来的なフレイルやサルコペニア等への移行が懸念される.サルコペニアは高齢者における骨格筋量の低下を特徴とする症候群であり,呼吸機能においても影響を受けることが考えられる.河野らは,1)地域在住自立高齢者において,呼吸機能と体組成が関連し,高齢者の呼吸機能低下にはサルコペニアが関与している可能性を示唆している.一方で,これらの研究は高齢者を対象としたものがほとんどで,若年健常者を対象とした研究は散見される程度である.また,運動習慣や生活習慣が身体組成や呼吸機能に与える影響について検討した研究は皆無である.
そこで,本研究は若年健常者における運動習慣・生活習慣の違いが身体組成及び呼吸機能に与える影響を明らかにする事を目的とする.
対象と方法
<対象>本校の在学生で喫煙経験のない若年成人20名とした(20.35歳±7).
<方法>スポーツ庁実施の体力・運動能力調査の項目から①クラブ部活動の所属状況の有無②スポーツ実施状況(週2以上・以下)③1日の運動スポーツ実施時間(1時間以上・以下)④朝食の有無⑤睡眠時間(6時間以上・以下)⑥スクリーンタイム(3時間以上・以下)についてアンケート調査.
スパイロメータにて肺活量,InBody270にて身体組成(体重,体水分量,筋肉量,除脂肪量,体脂肪量,体脂肪率,BMI,骨格筋量,骨ミネラル量,SMI)を測定.
統計解析として,運動習慣・生活習慣の違いにより2群に群分けし,呼吸機能及び身体組成の比較を対応の無いT検定にて実施し有意差及び効果量を求めた.統計解析ソフトはR コマンダー4.1.2を使用し有意水準はすべて5% とした.
結果
以下に効果量中以上の項目を示す.①クラブ部活動の所属状況(体脂肪率)②運動・スポーツの実施状況(筋肉量,BMI,体脂肪率,体脂肪量)③1日の運動・スポーツ実施時間(筋肉量,体脂肪率,体脂肪量)④朝食の有無(体重)⑤スクリーンタイムの時間(体水分量,除脂肪量,筋肉量,骨格筋量,骨ミネラル量).なお,②運動・スポーツ実施状況の体脂肪率,体脂肪量と③1日の運動・スポーツ実施時間の体脂肪量においてはp<0.05で有意差が認められた.
考察
スクリーンタイム時間が3時間以上の群は3時間以下の群に比べ,効果量中以上で体水分量,徐脂肪量,筋肉量,骨格筋量,骨ミネラル量が少なく体脂肪量が多かった.これは1日のスクリーンタイム時間が長くなることで運動時間が相対的に削られ運動量が減少していることが原因ではないかと考えられる.また,スポーツ実施状況群の体脂肪率及び体脂肪量と実施時間群の体脂肪量においてはp<0.05で有意にスポーツ実施頻度, 実施時間が少ない群が高値を示した.これは,日々の生活における運動不足が体脂肪量や体脂肪率の増加に影響していたのではないかと考えられる.以上のことから,運動習慣の不定着による運動不足が健康面に影響を及ぼし,将来的なフレイルやサルコペニア,また生活習慣病の進展に影響を及ぼす危険性が考えられる.
今後の課題として,対象人数を増やして実施すること,また身体組成は性差の影響も考えられることから,性差を比較することが必要と考える.
参考文献・引用
- 河野千紗都他:地域在住自立高齢者の呼吸機能には体組成が影響する,第54回日本理学療法学術大会抄録集,2019