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2024年度 課題研究発表会
口述演題

非利き手での書字動作に使用物品が及ぼす影響について

キーワード:利き手交換書字非利き手
作業療法士学科
井田 華鳳/伊藤 奏美/岩谷 心暖/濱口 乃愛/福井 友希

はじめに

利き手交換とは疾病等の後遺症や事故によって,利き手が機能しなくなった場合や欠損した場合に行うが,川上らは「作業療法士が介入する利き手交換練習は食事と書字が大半を占めている」1)と述べている.そこで本研究では効果的な非利き手の書字動作の獲得を目的に鉛筆の太さ・形状・補助具の種類の違いが筆記時間に及ぼす影響について検証した.

 

対象および方法

対象は同意が得られた本校在校生のうち両利きと利き手交換経験のある者を除外した計26 名をA 群9 名,B 群:9 名,C 群:8 名に分け検証した.A 群は六角形・三角形:鉛筆の形状の違い,B 群は7㎜・9㎜:三角形の鉛筆の太さの違い,C 群は補助具1(プニュグリップ:クツワ株式会社)・補助具2(鉛筆グリップ:MOMI):補助具の違いをそれぞれ検証した.
検証方法は宮本らが, 日本語の字体的特徴を整理した文字の中から10 文字(〇・△・□・~・会・口・あ・ぬ・え・ん) 2)を抽出し, それらが上端に記載された筆記用紙に各群で指定した鉛筆を使用し,非利き手で10 文字を横向きに転記し終えるまでの時間の計測を行った.作業環境は同一規格の机と椅子を使用し,反復作業に伴う疲労の影響を防ぐために検査は休憩を挟んで行った.
鉛筆硬度は2B とした.転記後は各鉛筆の使用感と書きやすい文字・書きにくい文字についてアンケートを行った.統計解析はWilcoxon の符号順位和検定を行い優位水準は5% 未満とした.

 

結果

A 群の非利き手での筆記時間において,六角形の鉛筆(23.1 ± 9.5 秒)と三角形の鉛筆(26.9 ± 10.6 秒)の筆記時間の間に優位差(p < 0.05)を認めた.アンケート結果はA 群では六角形の鉛筆のほうが握りやすく書きやすい.B 群では9㎜のほうが書きやすい.C 群では補助具1・2 ともに書きやすいが,補助具2 においては力が入らず書きにくいという意見も得られた.また各群に共通して書きやすい文字は3 種類(~・△・〇)の記号が挙げられ,書きにくい文字は2 種類(あ・ぬ)の平仮名が挙げられた.

 

考察

今回,鉛筆の形状・太さ・補助具の違いによって筆記時間に差異が生じるか検証した. 検証結果より非利き手での横書きの鉛筆の筆記時間において三角形の鉛筆と比較して,六角形の鉛筆を使用した場合に筆記時間が短いことが明らかとなった.小玉らは,効率的な鉛筆の操作においてウェブスペースが保たれた状態で手指の運動で筆記できることが重要である3)と述べている. 三角形の鉛筆は手指の設置面積が広い反面, 鉛筆の安定性を向上させるために示指PIP 関節の伸展が要求される. そのためウェブスペースの狭小化が生じやすく動作効率が低下した結果,六角形の鉛筆との筆記時間の差異につながったと考えられる.

今後の課題・展望

本研究では非利き手での転記作業を各群で所要時間を用いて検証を行い, 鉛筆の形状について有効性が確認された. そのため今後は形状を一定に設定し,太さや補助具の種類による筆記時間や書字動作の遂行状況について満足度の差異を明らかにしていきたいと考える.

 

 

参考文献・引用

  1. 川上永子ら:歯磨きに対する利き手交換訓練-訓練効果を得るための実施期間-.四條畷学園大学リハビリテーション学部紀要,(4),19-27, 2008.
  2. 宮本礼子ら:日本語の筆順における左右手の運筆機能の相違.作業療法,42(3),289-298,2023.
  3. 小玉武志ら:スプーンから箸を使える手の育て方.臨床作業療法NOVA イラストでわかる生活動作と読み書き支援,17(3),66-89,2020.

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