嚥下機能低下の見られる患者への誤嚥予防のための援助
はじめに
高齢になると, 加齢により徐々に接触嚥下機能は低下していくという特徴がある. しかし, 口から食べることは栄養摂取以上の意味があり, 食べることは活力の源である1). 今回, 自力食事摂取可能であるが, 嚥下機能低下により嚥下時・嚥下後に誤嚥が見られるアルツハイマー型認知症の高齢患者を受け持った. 食事中の姿勢の改善や, 食事摂取に対する援助を行った結果, 誤嚥が見られなくなったため, その要因について考察する.
事例紹介
A 氏90歳代女性, アルツハイマー型認知症, 既往歴に慢性腎不全があり, 食事管理と内服管理が必要である. 一人暮らしで, 遠方にいる家族の介護が困難であるため回復期病棟で入院中. 食事はセッティングで自力摂取可能だが, 加齢による嚥下機能の低下から, 嚥下時・嚥下後の誤嚥がみられた. また, 食事の途中で食器を見つめて動きが止まる動作が見られていた.「お腹が空いている」という発言が食事前に聞かれ, 全量摂取できている.
看護の実際
A 氏は車椅子でデイルームに移動して食事を取っていたが, 机と身体との間に距離ができていたため, 車椅子上での座位姿勢を安定させられるよう深く座り, 背もたれと背中を近づけるように指導を行い, 姿勢の安定を図った. また, 食事中スプーンを使用しており, 食事がカットされている場合は少量ずつ摂取するが, カットされていない場合は一口量が多くなっていた. そのため, 箸の使用はどうかとA 氏に提案をし, 使用食具を箸へ変更すると, 一口量の減少が見られた. これらの結果, 嚥下時・嚥下後の誤嚥が見られなくなった.
考察
青山らは, 食事援助のポイントとして「安全な食事環境の設定, 食事介助はもちろん, セルフケア拡大のため可能な限り自らの手で食具を使って, 自分のペースで食べることができるような援助を心がけていく」2)と述べている. 安全な環境作りとして, 車椅子上での姿勢の改善や, 自らの手で適切な量の食事摂取が続けられるよう, 使用食具の変更を行ったことは,A 氏にとって食事摂取の自立を維持しながら誤嚥予防対策を行うことにつながり, 効果的であったと考える. 箸を使用することにより, 必然的に一口量が少なくなるため, 使用食具の適切な選択は, 効果的で安全な食事摂取のための手段としても有効であったと推測する. 摂食嚥下障害の症状は様々であるため, それらのメカニズムを理解してかかわることが大切であると考える.A 氏の場合, 嚥下時・嚥下後に誤嚥があったため, 箸の使用により口腔内に取り込む1回食物量が適切な量に減少したことで, 咽頭期まで食物が移動する時間に余裕ができ, 確実に嚥下ができるようになったと考える.
結論
車椅子上での姿勢の改善や, 自らの手で適切な量の食事摂取が続けられるよう, 使用食具の変更を行ったことにより, 嚥下時・嚥下後の誤嚥が減少した.
参考文献・引用
- 青山寿昭ら:摂食嚥下ケア,摂食・嚥下障害看護認定看護師,第1版第2刷,照林社,14,137
- 青山寿昭ら:摂食嚥下ケア,摂食・嚥下障害看護認定看護師,第1版第2刷,照林社,138,141